このページの要点
- 特定募集情報等提供事業者は、その募集情報等提供に係る募集に応じた労働者(求職者)から、いかなる名義でも、その募集情報等提供に関し報酬を受けてはならない(職業安定法43条の3)。
- 求職者と企業を一つの「ユーザー」とする1本の規約は、禁止事項・料金・同意の文言が混在しやすい。分ける。
- 見せる項目の一覧を、求職者用規約・プライバシーポリシー・企業用規約で一字一句そろえる。
- 送客は、課金の単位(1名一回限りか月額か)と非課金申請の期限・書式・証憑・承認基準を明記する。
スカウト・人材データベース・送客は「特定募集情報等提供」
求職者の情報を集めて、企業や紹介会社に提供する事業は、職業安定法上の「特定募集情報等提供」に当たります(4条7項)。募集情報等提供の4つの類型のうち、求職者などの依頼を受けて求職者の情報を企業・紹介会社に提供するもの(4条6項3号)と、企業の労働力の確保のために求職者の情報を自ら集めて提供するもの(同項4号)が、スカウト・データベース・送客の典型です。紹介会社に求職者を送る「送客」も、提供先が「他の職業紹介事業者等」なので、これらの文言に含まれます。
特定募集情報等提供事業を行うには、事業開始前の届出が必要です(43条の2第1項)。届出の手続はこのガイドでは扱いませんが、規約を作る側として押さえておきたいのは、届出をした事業者に固有の規制です。
特定募集情報等提供事業者に固有の規制(規約に影響するもの)
- 募集に応じた労働者から、その募集情報等提供に関し、いかなる名義でも報酬を受けてはならない(43条の3。違反は65条6号)。
- 求職者の個人情報は、業務の目的の達成に必要な範囲で、目的を明らかにして収集し、その範囲で保管・使用する(5条の5第1項)。適正に管理する措置も講じる(同条2項)。
- 業務上知り得た人の秘密を漏らさず、個人情報をみだりに他人に知らせない(51条。1項の違反は66条11号)。
- 5条の5・43条の3・51条などに違反すると、事業の全部又は一部の停止を命じられることがある(43条の4)。
この規制を前提にすると、スカウト・送客サービスの規約で最も大事なのは、求職者の情報を「誰に、どの範囲で、何の目的で」見せるのかを、求職者向けの規約・プライバシーポリシー・企業向けの規約(契約)の三つで一致させることです。
1本の規約を、求職者用と企業用に分ける
求職者と企業(求人企業・人材紹介会社)をまとめて「ユーザー」とし、1本の規約で両方を規律すると、次のような構造上の問題が生じやすくなります。Web履歴書の作成とスカウトの受信を提供するサービスの案件でも、この点が出発点になりました。
- 禁止事項に「本サービスを通じて営業、勧誘、リクルーティング等を行う行為」が全ユーザー共通で入り、企業ユーザーの本来の利用目的と衝突する。
- 企業向けの料金の条(成果課金・月額定額)が、求職者にも適用される規約に並ぶ。
- 企業が送客を受けた求職者に電話・メールなどで直接連絡する機能について、求職者の側の同意の文言が十分に書けない。
設計の要点 求職者用と企業用への分割
| 論点 | 設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 適用対象 | 規約を求職者用と企業用に分け、求職者用は「求職者として利用する個人」に適用対象を限定する。 | 相手方が違えば、料金・禁止事項・情報の利用目的がまったく違うためです。 |
| 連絡の手段 | 求職者用の規約で、スカウトの通知に「電子メール、本サービス内の通知又は電話による連絡を含む」と連絡手段を明記する。 | 企業から電話が来ることを、求職者が登録の段階で知っておけるようにするためです。 |
| 禁止事項 | 求職者用の禁止事項は求職者の行為(第三者の個人情報の無断利用、求人行為など)に絞り、求職者は全機能無料と明記する。 | 企業の利用目的と衝突する禁止事項を、求職者用に入れないためです。 |
| 企業の情報の利用 | 企業用の規約で、取得した求職者情報は「自社の採用活動、又は正当な提携関係にある企業への人材紹介・人材派遣の目的の範囲内」でのみ利用でき、人材紹介会社・派遣会社が紹介先・派遣先に選考のため提供することは正当な目的に含まれると明記する。 | 人材紹介会社が利用企業になる場合の再提供を、正面から書くためです。 |
原案が1ファイルでも、書類の種類(相手方)ごとに分けるのが事務所の運用です。求職者は消費者なので、求職者用の規約には消費者契約法が適用されます。企業用の規約は事業者間の取引として、料金・課金単位・非課金の手続を細かく書くことができます。
「何を見せるか」を三つの書類で一字一句そろえる
新卒スカウトのSaaSの案件では、企業向けのSaaS提供契約で、学生の情報は学生本人の明示的な同意を得たうえで、学生が公開を許諾した範囲に限って閲覧できる、氏名・電話番号・メールアドレス・現住所(都道府県名を除く)などの直接識別情報は運営者が別途許可しない限り企業に提供しない、学生は項目ごとにマスク設定・スカウト掲載の停止ができる、と定めました。
設計の要点 学生向けプライバシーポリシーとSaaS契約の突合
| 論点 | 設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 現住所の扱い | 学生向けプライバシーポリシーでも「現住所(都道府県名を除く)」を非公開とし、SaaS契約の「県名までを共有」と一字一句そろえる。 | 企業向けの契約と求職者向けのポリシーで、見せる範囲が1字でも違うと、同意の範囲を超えた提供と評価されるおそれがあります。 |
| 必須項目と任意項目 | 必須項目と任意項目の区別を明記する。 | 学生が「出さなくてもよい情報」を判断できるようにするためです。 |
企業向けの規約では、サービスの定義を「SaaS型新卒採用支援サービス」とし、データ提供の機能も「システム上での画面閲覧、又は指定するATSとの連携」に限って、CSVによる一括取得は置かない設計にしました。企業の採用活動を支援するツールであることを定義の段階で表し(「マッチング」という語は、雇用関係の成立のあっせんを連想させることがあります)、学生情報の企業側への持出しを最小にする方向です。
ATSとは、企業が応募者の情報を管理する採用管理システムのことです。企業がSaaSからATS連携・画面のキャプチャ・メモで保存した情報(抽出データ)は、企業自身が個人情報の管理者として保存・利用・削除する、学生が退会すれば閲覧の権限は直ちに失効する、と定めています。運営者のシステムから消しても企業の側に情報が残ることを前提に、企業に削除の義務を課し、学生向けのポリシーにも同じ内容を書きました(求職者の個人情報とプライバシーポリシー)。
企業の利用目的:再提供を認める設計と、禁じる設計
同じスカウト型のサービスでも、利用企業に人材紹介会社を含めるかどうかで、規約の設計は正反対になります。
利用企業の範囲と、求職者情報の利用目的
再提供を認める設計(Web履歴書・スカウト受信)
- 利用企業に人材紹介会社・派遣会社を含む
- 紹介先・派遣先への選考のための提供は正当な目的
- 求職者には、紹介会社からさらに紹介先へ情報が渡ることを説明する
再提供を禁じる設計(新卒スカウトSaaS)
- 自社の新卒採用・インターン募集の目的に限る
- 営業・広告配信・調査研究・転職あっせん・再委託に使えない
- 親会社・子会社・提携先にも書面承諾なく提供できない
どちらを選ぶかで、求職者への説明と同意の範囲がまったく変わります。
条文例企業用利用規約 第◯条(求職者情報の利用目的)
- 利用企業は、本サービスを通じて取得した求職者の情報(以下「求職者情報」といいます。)を、自社の採用活動の目的にのみ利用するものとします。
- 前項にかかわらず、職業紹介事業者である利用企業は、求職者情報を、当該求職者の同意の範囲内で、その紹介先となる企業の選考のために提供することができます。この場合、利用企業は、紹介先の企業に本条と同等の義務を課すものとします。
- 利用企業は、求職者情報を、営業、広告の配信、他の求職者の勧誘その他前二項以外の目的に利用してはなりません。
- 利用企業は、求職者が本サービスを退会したとき、又は利用の目的を達成したときは、自社の管理するシステムに保存した求職者情報を、自らの責任で速やかに削除又は匿名化するものとします。
第2項は再提供を認める設計の場合の例です。再提供を禁じる設計なら第2項を置かず、第3項に「親会社・子会社その他の第三者への提供」を加えます。
新卒スカウトSaaSの企業向け規約では、社内でもアクセスは採用実務の担当部署に限り、アカウントの共有や権限の無限定な付与を禁止し、運営者は遵守状況を書面の調査・質問票・証跡の提出で確認でき、実地の監査は事前通知のうえで行う、としていました。再提供を禁じる設計では、禁じた内容が守られているかを確かめる手段まで規約に置いておくことが要点です。
スカウトの上限、承諾後のメッセージ、学生向け規約の書き方
新卒スカウトSaaSでは、企業が送れるスカウトの数を、学生による情報の提出数に応じて付与するなど運営者のルールで制限し、メッセージ機能は学生がスカウトを承諾した場合に限って双方向で使える、としました。上限の決め方を規約に書いておくと、企業から送信数の追加を求められたときにも、規約に基づく制限であることを示して説明できます。スカウトの文面は、虚偽・誤認を生じさせる表示・過度な期待を抱かせる表現を禁止しています。求職者の側の主導権(誰に、どこまで見せ、誰と話すか)を機能として担保しておくことが、同意の範囲の説明と、無差別な大量のスカウトの防止の両方につながります。
設計の要点 学生向け規約
| 論点 | 設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 提出後の非表示 | 「既に企業に提出済みの情報は、その後に非表示化することはできない」といった文言は置かない。 | 学生(消費者)向けの規約では、一方的に不利益を受け入れさせる文言を外す方向で設計します。 |
| 機能の変更とアカウントの停止 | 「機能の中断・変更にユーザーは異議を述べることができない」といった文言は置かず、アカウントの停止に対して学生が異議を申し立てることができ、運営者は合理的な期間内に検討し、必要と認めれば制限を解除する、と手続を置く。 | 異議を封じるのではなく、手続を用意する形にするためです。 |
| 未成年者 | 「できる限り保護者又は法定代理人の同意を得てから利用してください」という呼びかけの形にする。 | 学生の利用を前提にしたサービスの実情に合わせました。 |
学生向け規約では、基本機能は無料とし、将来の有料オプション・プランは、内容・利用条件・料金・支払方法・返金のポリシーを事前に示し、学生の明示的な同意を得てから提供を始める、サブスクリプションなら自動更新の条件・解約の期限・解約の手続・課金の停止条件も明示する、と定めました。特定募集情報等提供事業者は、募集に応じた労働者から、その募集情報等提供に関し報酬を受けてはならない(43条の3)ので、有料の機能を導入するときは、その機能が募集情報等提供と切り離せるものかを個別に検討することになります。
スカウトの文面を企業が自由に書けるサービスでは、運営者は企業が作った文面の内容まで逐一確認できません。それでも、スカウトの文面は求職者に届く募集の情報なので、企業には虚偽・誤解を生じさせる表示をしない義務と、正確・最新に保つ義務がかかります(職業安定法5条の4第1項・2項)。企業向けの規約で文面の禁止事項を具体的に列挙し、求職者からの通報を受けたら送信を停止できる手続を置いておくのは、掲載型の求人サイトの規約と同じ考え方です(求人サイトの利用規約)。面接の録音や AI による評価の機能を持つ採用支援ツールでは、さらに別の論点が加わります(採用管理・AI面接SaaSの利用規約)。
送客の課金単位、非課金の申請、送客先の品質
設計の要点 送客の課金(Web履歴書・スカウト受信サービスの企業用規約)
| 論点 | 設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 課金の単位 | 「送客した求職者1名ごとに、業種・希望条件等に基づく金額が一回限り発生」と書く。 | 「月単位で課金」と読める書き方では、同じ求職者について毎月課金されると企業が受け取りかねません。 |
| 非課金の申請 | 「当社が定める非課金申請受付期間内に、所定の書式及び証憑を添付」して提出し、運営者が「合理的な理由に基づき」承認した場合に課金しない。 | 期限・書式・証憑・承認の基準を明確にするためです。 |
求職者を集める動画メディアと転職エージェントの送客契約では、メディアに登録した求職者の中からエージェントの希望条件に合う者を選定し、エージェントの面談予約リンクで日程を調整して送客する、報酬は月額の固定の掲載費用(送客数・成約に連動しない、返金不可)、と定めていました。さらに、運営者が行う求職者アンケートで送客した求職者の8割以上がエージェントのサービスに「不満」と評価し、その状態が4か月続いた場合は、運営者が事前通知のうえ契約を解除できる、という求職者保護の観点の解除事由を置いています。求職者を送り出す側が、送客先の対応の品質を契約上の解除事由として管理する工夫です。
この送客の構造は、運営者が求職者の情報を集めて職業紹介事業者に提供するものなので、特定募集情報等提供の届出が前提になります。報酬を固定にして成約に連動させていないことは、運営者自身が職業紹介(あっせん)をしていると見られにくくする要素の一つと考えられます(事業の型と許可・届出の要否)。同じ契約では、エージェントの紹介用のPR動画の作成・掲載も業務に含め、料金は1か月・6か月・12か月のプラン別の月額固定(返金不可)としていました。送客のメディアの側から見ると、送客の人数に連動しない固定料金は売上の見通しが立つ一方、エージェントの側からは「送客が少ない月も払う」ことになるので、送客の目安の人数や、目安を大きく下回った場合の協議の条を求められることがあります。固定料金にするなら、何に対する対価か(掲載・動画の制作・送客の機会の提供)を業務の条で明確にしておきます。
一方で、運営者が「希望条件に合う者を選定」する工程は、選定の基準と関与の程度によってはあっせんとの距離が問われ得るので、運営の実態と契約の文言をそろえておく必要があります。
卒業・退会後の閲覧停止と、匿名加工情報の提供先
新卒スカウトSaaSの企業向け契約では、学生が卒業した後の学生情報の閲覧は運営者の裁量で停止でき企業は異議を唱えない、と定めました。新卒向けのサービスでは「卒業=求職者でなくなる時点」で企業への開示を止める設計が、求職者情報を収集の目的の範囲内でのみ使用する義務と整合します。
また、運営者は個人情報を匿名加工情報に加工して学術研究のために保持・分析でき、再識別を防止する措置を講じたうえで、秘密保持契約を結んだ大学・研究機関・共同研究先に限って提供でき、利用企業には提供しない、としました。匿名加工情報とは、特定の個人を識別できないように加工し、元に戻せないようにした情報のことです。提供先を利用企業から切り離しているのは、企業が学生のデータを統計の形で取得して再識別に使うことを防ぐ趣旨と説明できます。
ヒヤリングで確かめること スカウト・送客サービスの規約を作る前の問い
利用企業に、人材紹介会社・派遣会社は含まれますか。
含むなら、紹介先・派遣先への再提供を求職者に説明し、同意の範囲に入れます。
企業に見せる項目と、見せない項目を一覧にしてください。
求職者用の規約・プライバシーポリシー・企業用の規約で同じ一覧を使います。
送客の課金は、1名一回限りですか、月額ですか。
課金の単位と非課金の申請の手続を企業用の規約に書きます。
求職者向けの有料プランを予定していますか。
報酬受領の禁止(43条の3)との関係を、導入前に検討します。
求職者が退会・卒業したとき、企業の側に保存された情報はどうしますか。
企業に削除・匿名化の義務を課し、求職者への説明にも同じ内容を書きます。
スカウト・送客サービスで起きがちなこと
よくあるご質問
スカウトサービスを始めるのに、届出は必要ですか?
求職者の情報を集めて企業や紹介会社に提供するので、特定募集情報等提供として、事業開始前に厚生労働大臣への届出が必要です(職業安定法43条の2第1項)。規約は、届出をした事業者に固有の規制(求職者からの報酬受領の禁止など)を前提に作ります。
求職者向けの規約と企業向けの規約は、分けたほうがよいですか?
分けることをお勧めします。求職者は消費者として消費者契約法の保護を受け、企業とは料金・禁止事項・情報の利用目的がまったく違うためです。1本にまとめると、企業の利用目的と衝突する禁止事項が求職者にもかかるなどの矛盾が生じます。
求職者から有料プランの料金をもらってもよいですか?
特定募集情報等提供事業者は、募集に応じた労働者から、その募集情報等提供に関し報酬を受けてはなりません(職業安定法43条の3)。履歴書作成ツールなど、募集情報等提供と切り離せる機能かどうかを個別に検討し、規約でも有料機能の範囲を明確にします。
人材紹介会社にも求職者の情報を見せてよいですか?
求職者の同意を得る際に、提供先に人材紹介会社が含まれること、紹介会社からさらに紹介先企業に情報が渡ることを説明しておく必要があります。企業向けの規約でも、再提供できる目的を限定して書きます。
送客の料金は、どう書けば企業とトラブルになりにくいですか?
1名ごとに一回限り発生するのか月額なのかという課金の単位と、課金しない場合の申請の期限・書式・証憑・承認の基準を具体的に書くことです。成約に連動しない固定料金にする方法もあります。
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本ページは一般的な情報提供です。許可・届出の運用や解釈は、所管の行政機関によって示されるものです。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた人材紹介契約書、求人掲載契約書、採用支援・採用代行の業務委託契約書、キャリアアドバイザー・営業代行との業務委託契約書、求人サイト・スカウトサービス・採用支援SaaSの利用規約とプライバシーポリシーなどを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。このガイドは契約書・利用規約・プライバシーポリシーを扱い、許可申請・届出の手続は扱いません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 個人情報保護委員会 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)