このページの要点
- 返戻金制度の内容は求人者・求職者に明示し、手数料表などとあわせて情報提供する(職業安定法施行規則24条の5)。
- 返金の対象は入社時に支払った部分に限り、受け取っていない部分は「発生しない」と書き分ける。
- 「自己都合」の定義に、解雇・条件の相違・ハラスメント・法令違反など求人者側の事由を具体的に列挙して除く。
- 返金請求の要件(通知期限と記録に残る資料)と、返金の支払期限を別の項で定める。
返金規定は義務ではないが、置くなら「明示」と「公開」が必要
人材紹介の返金規定は、職業安定法施行規則では「返戻金制度」と呼ばれています。紹介により就職した者が早期に離職したことその他これに準ずる事由があった場合に、その者を紹介した雇用主から徴収すべき手数料の全部又は一部を返戻する制度その他これに準ずる制度、という定義です(施行規則24条の5第1項2号)。
返戻金制度を置くこと自体は義務ではありません。しかし置く場合は、その内容を求人者・求職者に明示し(職業安定法32条の13、施行規則24条の5第1項2号。明示は申込みの受理後速やかに書面等で行います。同条2項)、手数料表や業務の運営に関する規程とあわせて、事業所での掲示やインターネットなどで情報提供しなければなりません(施行規則24条の5第4項)。つまり、契約書の返金規定は、ホームページに出している返戻金制度の説明と同じ内容でなければならない、ということです。
返金規定の設計で詰めるべきは、次の4点です。
返金規定で決める4つの要素
起算点と期間
- 入社日から何日・何か月以内か
- 「1か月未満」と「1か月以内」の違い
- 期間ごとに返金の割合を段階で変えるか
返金の対象額
- 手数料全額か、入社時に支払った部分だけか
- 分割払いなら、受け取っていない部分は返金でなく「不発生」
- 実費は返金の対象外か
返金する離職・しない離職
- 自己都合退職だけか、解雇を含むか
- 「自己都合」の定義
- 求人者側の事情による退職は対象外
これに、返金を請求するための「通知期限」と「資料」、返金の「支払期限」を加えて条を組みます。
返金の対象を「入社時に支払った部分」に限る
外国人材の紹介契約では、手数料の支払が「内定時」と「入社時」の二段階に変わったこと(紹介手数料の設計)に伴い、返金規定を組み替えました。
設計の要点 返金の対象と割合
| 論点 | 設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 返金の基礎 | 返金の対象を入社時に支払った部分に限定し、1か月以内の退職は全額、1か月超3か月以内は半額とする。 | 内定時の部分は返らないことが契約上はっきりし、返金の基礎となる金額が明確になります。 |
| 期間の境界 | 区分の表記を「1か月以内」「1か月超3か月以内」にそろえる。 | 返金の基礎を組み替えるのにあわせて区分の表記を「以内」にそろえ、境目の日の扱いを一義的にしました。 |
| 内定取消との一貫性 | 内定取消の条でも「既に内定時の手数料を支払っている場合は返金しない」と明記する。 | 内定取消・早期退職のどちらの場面でも、内定時の部分と入社時の部分の扱いが条文上で一貫するようにするためです。 |
返金の額の計算も、条文で迷わない書き方にしておきます。たとえば、内定時と入社時に半分ずつ支払う設計で、入社日から2か月目に自己都合で退職した場合、返金の対象は入社時に支払った部分だけで、その50%が返金額になります。手数料を分割払いに改めた後も手数料全体を基礎にする書き方のままだと、受け取っていない部分や内定時の部分まで計算の基礎に入るように読め、返金額について双方の計算が合わなくなります。消費税を加算して受け取った手数料を返金するときは、返金額に消費税相当額を含めるかどうかも書いておくと、経理の処理で迷いません。
分割払いの手数料では、「受け取っていない金は返せない」という当たり前のことを条文で書き分ける必要があります。まだ受け取っていない部分は「返金」ではなく「発生しない」と書くほうが正確です。月額連動型の手数料なら、返金規定ではなく「離職した月の翌月以降は発生しない」という書き方が中心になります。
「自己都合退職」の定義と、返金しない場合
返金規定の争いで最も多いのは、退職が「自己都合」に当たるかどうかです。試用期間満了での本採用拒否、退職勧奨、求人票と違う条件を理由にした退職、職場でのハラスメントを理由にした退職は、本人の申出による退職でも、求人者の側の事情が原因です。
設計の要点 自己都合退職の定義と確認方法
| 論点 | 設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 定義 | 「求人者の解雇、労働条件相違、ハラスメント、法令違反その他求人者の責めに帰すべき事由によらず」と、求人者側の事由を具体的に列挙し、これらによる退職は返金の対象外と明記する。 | 条件の相違やハラスメントによる退職を返金の対象外とすることを、具体的な列挙で明確にしました。 |
| 確認方法 | 定義は中身だけにし、返金請求の要件として「退職届、本人による意思表示の記録その他合理的資料」の提示を求める。 | 定義と確認の手続を分け、返金請求の要件として記録に残る資料を求める形に整理しました。 |
| 請求と支払の期限 | 請求の要件(通知と資料)と、返金の期限(請求日から30日以内)を別の項に分ける。 | 何を出せば、いつ返金されるのかが読み取りやすくなります。 |
条文例人材紹介基本契約書 第◯条(返戻金)
- 紹介人材が入社日から3か月以内に自己都合により退職した場合、甲は、乙が入社時に支払った紹介手数料(以下「入社時手数料」といいます。)について、次の区分に従い返戻金を支払います。(1)入社日から1か月以内の退職 入社時手数料の全額 (2)入社日から1か月を超え3か月以内の退職 入社時手数料の50%
- 前項の「自己都合により退職した場合」とは、乙による解雇(試用期間の満了による本採用の拒否を含みます。)、求人票その他乙が明示した労働条件と実際の労働条件との相違、乙又はその従業員によるハラスメント、乙の法令違反その他乙の責めに帰すべき事由によらずに退職した場合をいいます。
- 乙は、返戻金を請求するときは、紹介人材の退職日から14日以内に、退職の事実を甲に通知し、退職届、本人による退職の意思表示の記録その他退職の事実及び事由を確認できる合理的な資料を提示するものとします。
- 甲は、前項の請求を受けた日から30日以内に、返戻金を乙の指定する口座に振り込んで支払います。ただし、乙が甲に対して本契約に基づく未払いの債務を負っているときは、甲は、返戻金をその債務に充当することができます。
- 内定時に支払われた紹介手数料及び乙が負担した実費は、返戻金の対象となりません。
甲=紹介会社、乙=求人者。期間・割合・通知期限は例です。返戻金制度として明示・情報提供している内容と必ず一致させます。
上の条文例の第2項は、求人企業との交渉で最も動きやすい部分です。退職の場面ごとに、返金の対象になるかどうかを整理しておくと、条文の列挙の過不足を確かめやすくなります。
退職の場面と、返金の対象になるか(条文例の定義による整理)
| 退職の場面 | 返金の対象か | 条文での手当て |
|---|---|---|
| 本人の転職・家庭の事情・体調などによる退職 | 対象 | 自己都合退職の典型。退職届等の資料で確認する |
| 無断欠勤が続いた後の退職 | 原則として対象 | 求人者の側の事情がないことを資料で確認する。懲戒解雇にした場合の扱いも決めておく |
| 試用期間の満了による本採用の拒否 | 対象外 | 求人者の判断による終了として、定義の中で解雇に含める |
| 求人票と違う条件を理由にした退職 | 対象外 | 労働条件の相違を求人者の責めに帰すべき事由として列挙する |
| ハラスメントを理由にした退職 | 対象外 | ハラスメントを列挙し、事実の確認の方法を協議で決める |
| 退職勧奨に応じた退職 | 対象外とする例が多い | 形式は本人の申出でも、求人者の働きかけによる退職として列挙に加えるか決める |
どの場面を対象にするかは当事者の合意で決まります。決めた内容は返戻金制度として明示・公開している説明と一致させます。
返戻金制度は、求人者だけでなく求職者にも明示する事項です(施行規則24条の5第1項2号)。求職者には費用の負担がないため説明を省きがちですが、求職者向けの利用規約や登録時の説明書面に、制度があることと、その制度によって求職者に負担が生じないことを書いておきます(人材紹介基本契約書と同じ内容を、求職者の立場から書き直す形です)。
条文例求職者向け利用規約 第◯条(返戻金制度について)
- 当社は、当社の紹介により就職した方が早期に離職した場合その他これに準ずる場合に、当社が求人者から受け取った紹介手数料の全部又は一部を求人者に返戻する制度を設けています。制度の内容は、当社のウェブサイトに掲載しています。
- 前項の制度は当社と求人者との間の取決めであり、求職者の方に費用の負担や返金の義務が生じることはありません。
ご質問と回答 返金規定をめぐるご質問
求人企業から「返金期間を6か月にしてほしい」と言われました。応じてもよいですか。
応じること自体は自由ですが、その求人企業だけ条件を変えるなら、個別の合意として書面に残し、公開している返戻金制度の説明と食い違う部分がどう扱われるかを基本契約の優先順位の条で整理しておきます。条件を全体として変えるなら、公開している説明も同時に改めます。
早期退職の連絡が、退職から2か月後に来ました。返金しなければなりませんか。
契約に通知期限があり、その期限を過ぎていれば、契約上は返金の要件を満たしません。期限の定めがない場合は請求を拒む根拠が弱くなるので、通知期限と資料の提示を返金の要件として書いておくことが大切です。
6か月以内の離職者数の情報提供と、求人者の協力
返金規定は、紹介会社が公開しなければならない情報ともつながっています。有料職業紹介事業者は、紹介により期間の定めのない労働契約で就職した者のうち、就職から6か月以内に離職した者(解雇によるものを除きます)の数をインターネットで情報提供しなければなりません(職業安定法32条の16第3項、施行規則24条の8第3項2号)。そして、その数を確かめるために雇用主に必要な調査をしなければならないとされる一方、返戻金制度を設けていて、返戻金制度に基づき手数料を免除する事由に当たった者の数を集計する方法で数える場合は、その調査は要しないとされています(同条5項・6項)。
このため、基本契約に返金規定を置くときは、あわせて「紹介人材の離職の状況について、紹介会社の照会に求人者が回答する」という協力の条を置いておくと、情報提供のための確認が契約上の手続に乗ります。求人者の側から見ても、照会の範囲が「入社日・離職日・離職が解雇によるものかどうか」に限られていれば、従業員の情報を必要以上に出さずに済みます(求職者の個人情報とプライバシーポリシー)。
条文例人材紹介基本契約書 第◯条(離職状況の確認への協力)
- 乙は、甲から、紹介人材の在籍の有無、入社日、離職日及び離職が解雇によるものかどうかについて照会を受けたときは、照会を受けた日から14日以内に回答します。
- 甲は、前項の回答を、返戻金の算定及び法令に基づく情報の提供のために必要な範囲でのみ利用し、紹介人材を特定できる形で第三者に開示しません。
甲=紹介会社、乙=求人者。照会事項は必要最小限に絞ります。
通知期限・資料・相殺
返金を請求するための通知期限は、短いほど紹介会社に有利ですが、求人企業の側から見ると交渉の対象になります。事務所の資料では、次のような定め方がありました。
返金を受けるための条件の定め方(事務所の資料から)
| 事業の型 | 通知期限と資料 | 返金の方法 |
|---|---|---|
| 外国人材の紹介契約 | 退職の事実の通知と、退職届・本人の意思表示の記録その他合理的資料の提示 | 請求日から30日以内に返金 |
| 求人掲載契約(成果報酬型) | 退職後5営業日以内に書面・電子メールで通知 | 既払いの成果報酬の50%を指定口座に振込。新たな債務があれば相殺で充当できる |
| 学生インターン求人(成果報酬型) | 退職日から7日以内に、退職事由・出社日・退社日を記載した書面(退職届・業務終了通知等)を提出 | 金銭の返金ではなく、同一職種の掲載権を1名分無償で再付与 |
継続的な取引では、返金を現金で戻すか、次回の手数料に充てるかを選べるようにしておくと実務が回ります。相殺できる債務の範囲(同じ契約の債務に限るか)を決めておくのが要点です。求人掲載契約では、返金の時期も「入社日が1日〜15日なら翌月15日、16日〜末日なら翌月末日」と、入社日の前半・後半で区切っていました。
返金の代わりに「代替の紹介」「再掲載」を約束する
学生インターン求人の成果報酬型の契約では、初出社から14日以内の退職・業務の中断で、求人者の責めに帰さないと運営者が判断したときは、金銭を返さず、同一職種・同一職位に限り1名分の求人掲載権を無償で再付与する、60日以内に利用を開始しないと失効する、延長・換金はできない、と定めていました。
求人広告型のサービスでは、返金より代替の掲載のほうが設計しやすい面があります。一方で、運営者の「判断」で適用の可否を決める書き方は、求人企業との紛争の火種になりやすいので、判断の基準(退職事由の資料)を明示しておくのが無難です。人材紹介で代替の紹介を約束する場合も、代替の紹介の期限、対象職種、代替の候補者が見つからなかった場合の扱い(返金に切り替えるか)を決めておきます。
返金と代替の紹介を併用するなら、どちらを選ぶかを誰がいつまでに決めるのかも条文にします。たとえば「求人者は、返金の請求に代えて、退職の通知から14日以内に代替の紹介を申し込むことができる。代替の紹介の申込みから3か月以内に採用に至らなかったときは、求人者は返金を請求することができる」という形です。選択の期限がないと、代替の紹介を受けながら返金も求める、という二重の請求を招きかねません。代替の候補者の手数料をあらためて請求しないことも、あわせて明記しておきます。
外部パートナーの報酬の返還と、期間をそろえる
紹介会社が求人者に返金したのに、その紹介に関わった業務委託のキャリアアドバイザーや営業代行への報酬はそのまま、では紹介会社だけが損をします。事務所の資料では、次のように連動させていました。
設計の要点 外部パートナーの報酬の返還
| 相手方 | 設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 業務委託のキャリアアドバイザーの委託料 | 返還事由を「委託者と求人者との間で定めた返金対象期間内に退職し、委託者が求人者に対して紹介手数料の返還義務を負う場合」とし、求人者との契約で決めた返金期間にそのまま連動させる。返還額は合理的かつ公平な基準で算出する。 | 求人者との契約の返金期間を変えるたびに委託契約を直さなくて済みます(キャリアアドバイザーとの業務委託契約)。 |
| 営業代行の成果報酬 | 入職後の一定期間内の自己都合・不適応による退職は、契約の解除事由ではなく報酬の条で扱い、「成果報酬は協議により減額又は不発生」とする。 | 早期退職は営業代行の契約違反ではなく、報酬の調整事由です。 |
紹介会社の返戻金制度と、外部パートナー(業務委託のキャリアアドバイザー、営業代行、送客メディア)への報酬の返還・不発生の期間と条件をそろえておくことが、返金規定を作るときにあわせて確認すべき点です。
ヒヤリングで確かめること 返金規定を作る前の問い
ホームページや求人者向けの資料で、返戻金制度をどう説明していますか。
契約書と公開している説明を一致させるためです。
返金の期間と割合を、段階ごとに教えてください。
「未満」と「以内」の境界を統一します。
試用期間満了での本採用拒否は、返金の対象にしますか。
本人の意思ではなく求人者の判断で終わる退職なので、求人者側の事由として対象外にする整理が多く見られます。
退職の事実を、どの資料で確認しますか。
口頭の申告では足りない形にします。
返金の代わりに代替の紹介をする選択肢を設けますか。
代替の期限・対象職種・見つからない場合の扱いを決めます。
返金規定で起きがちなこと
よくあるご質問
人材紹介の返金規定は、必ず設けなければなりませんか?
義務ではありません。ただし設ける場合は、返戻金制度としてその内容を求人者・求職者に明示し、インターネット等で情報提供する必要があります(職業安定法施行規則24条の5第1項2号・4項)。契約書と公開している説明を一致させてください。
手数料を分割で受け取る場合、返金規定はどう書けばよいですか?
どの支払部分を返金の対象にするかを特定します。たとえば入社時に支払った部分だけを対象にし、まだ受け取っていない部分は「返金」ではなく「発生しない」と書くほうが正確です。
求人企業のハラスメントが原因で辞めた場合も、返金が必要ですか?
契約で、求人企業の責めに帰すべき事由(労働条件の相違、ハラスメント、法令違反、解雇等)による退職は返金の対象外と定めておけば、返金は不要です。抽象的な表現ではなく、具体的に列挙しておくことが大切です。
返金の代わりに、無料で代わりの人を紹介する形にできますか?
可能です。その場合も、代替の紹介の期限、対象職種、代替の候補者が見つからなかった場合に返金に切り替えるかどうかを決めておきます。
求人企業の立場で、返金規定のどこを交渉すべきですか?
期間、割合、自己都合の定義(試用期間中の本採用拒否の扱いを含む)、通知期限と提出する資料、返金の支払期限です。返金と次回の手数料との相殺を選べるかも確認しておくと実務が回ります。
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本ページは一般的な情報提供です。許可・届出の運用や解釈は、所管の行政機関によって示されるものです。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた人材紹介契約書、求人掲載契約書、採用支援・採用代行の業務委託契約書、キャリアアドバイザー・営業代行との業務委託契約書、求人サイト・スカウトサービス・採用支援SaaSの利用規約とプライバシーポリシーなどを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。このガイドは契約書・利用規約・プライバシーポリシーを扱い、許可申請・届出の手続は扱いません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 個人情報保護委員会 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)