採用管理・AI面接SaaSの利用規約とプライバシーポリシー

法人向けの採用支援SaaSでも、候補者がメッセージや録音の機能を使うなら、候補者もサービスの利用者です。

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規約が「消費者を対象としない」と書いたまま、候補者が画面で規約に同意して面接の録音に応じている、という食い違いが起きがちです。

このページの要点

  • 候補者が使うなら規約の当事者に入れ、「候補者情報」「録音データ」を定義する。
  • 録音の実施主体は求人企業とし、候補者の同意の取得は求人企業の責任、運営者は同意の画面と記録の機能を用意する。
  • 委託を受けた候補者のデータを運営者のAI改善に使うことは、委託の範囲との関係を検討し、統計情報に限るなど書き分ける。
  • 外国のサーバー・AIサービスを使うなら、外国にある第三者への提供(個人情報保護法28条)の措置を書く。

候補者もサービスを使うなら、候補者を規約の当事者に入れる

採用管理システムや、面接の録音・文字起こし・AIによる要約や評価を行う採用支援SaaSの規約は、「法人向けのサービスだから、規約の当事者は契約した企業だけ」という前提で作られがちです。しかし、候補者(求職者)がサービスの画面でメッセージを送受信したり、面接の録音に応じたりするなら、候補者もサービスの利用者です。

AIによる面接の録音・文字起こしを行う採用支援SaaSの案件では、候補者とのメッセージの送受信やフィードバックの機能を備え、候補者自身が規約とプライバシーポリシーに同意して使う仕様であることを前提に、規約の当事者と適用範囲を組み立てました。

設計の要点 規約の当事者と適用範囲(AI面接録音SaaS)

論点設計理由
規約の当事者冒頭に「本規約は、当社と契約者(法人等)及び候補者との間の一切の関係に適用される」「候補者は、本サービス上に表示される方法により、本規約及びプライバシーポリシーの内容を確認し、明示的に同意したうえで利用する」と書く。候補者が実際にサービスを使う以上、候補者との関係を規律する規約が必要です。
定義「候補者情報」(氏名・連絡先・生年月日・履歴書・職務経歴・面接の評価・録音データ・メッセージの履歴)と、「録音データ」(音声と、文字起こしなどの派生データ)を定義する。何を、誰の責任で扱うのかを、定義の段階で特定するためです。
禁止事項「面接その他の選考過程で、相手方の適法かつ有効な同意を得ない録音又は情報の取得」「契約者と候補者とのコミュニケーションにおける虚偽の表示・誹謗中傷・威迫・ハラスメント」を置く。候補者と契約者の双方に向けた禁止事項にするためです。

規約の中で書き分ける、契約者と候補者の位置づけ

契約者(求人企業)

  • 料金・契約期間・解約の条件
  • 録音の実施主体として候補者の同意を取る責任
  • 生成物を使った採用判断の責任
  • 候補者情報の目的外利用の禁止

候補者(求職者)

  • 料金はかからないことの明示
  • 規約・プライバシーポリシーへの明示的な同意
  • 禁止事項(虚偽の申告、他人へのなりすまし等)
  • 問合せ・異議の窓口

運営者

  • プラットフォームの提供者であり、採用判断の主体でない
  • 同意の画面・記録の機能の提供
  • 保存の期間と、終了後の削除又は匿名化
  • 外部サービスの利用と越境移転の措置

1本の規約で両者に適用する場合も、条ごとに誰に向けた定めかを明示します。求職者用・企業用で規約を分ける考え方は、スカウトサービスの規約と同じです。

規約を1本にするか、契約者用と候補者用に分けるかは、候補者が使う機能の多さで決めます。候補者が使う機能がメッセージと録音の同意程度なら、1本の規約の中で候補者に適用される条を明示する方法で足りることもあります。候補者がプロフィールを登録し、複数の企業から連絡を受けるような機能があるなら、スカウトサービスと同じように規約を分けるほうが整理しやすくなります(スカウト・送客サービスの規約)。

候補者を規約の当事者にした以上、運営者と候補者の関係には消費者契約法が及びます。法人の契約者だけを想定して作った免責や責任の上限の条項は、候補者との関係では見直しが必要です(このページの最後の章で扱います)。

候補者情報の取得元を書き分ける

同じSaaSのプライバシーポリシーでは、取得する情報を「企業ユーザーに関する情報」「候補者(求職者)に関する情報」「Cookie等の情報」に分け、候補者の情報として、氏名・連絡先・生年月日・履歴書・職務経歴・資格・自己PR、面接の録音データ、録音から生成される文字起こし・要約・分析結果・評価指標、面接の評価・フィードバックを列挙しました。取得の方法は「本人からの直接の取得、契約企業からの提供、外部の認証サービスとの連携、Cookie等による自動取得」と書き分け、要配慮個人情報が含まれる場合は法令に従って扱う旨も置いています。

候補者情報の取得元と、扱いの違い

取得元例整理のポイント
候補者本人から直接候補者がサービスの画面で入力したプロフィール、メッセージ運営者が取得する場面。利用目的を本人に示す
契約企業(求人企業)から企業が登録した応募者の履歴書、面接の評価運営者は企業から取扱いの委託を受ける立場になることが多い
録音・AIの処理から生成録音データ、文字起こし、要約、評価指標元の録音の同意の範囲で扱う。生成物の利用の制限を規約に置く
外部の認証サービス・Cookie等ログインの連携、アクセスの記録連携先と取得する項目を示す

求人企業は、職業安定法5条の5により、求職者等の個人情報を、業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集する義務を負っています。面接の録音データの収集も、「業務の目的の達成に必要な範囲」で、目的を明らかにして行う必要があります。SaaSの運営者は、その義務を求人企業が果たせるような画面と説明を用意しておくと、規約の上の役割分担が実務で回ります(求職者の個人情報とプライバシーポリシー)。

録音の同意は誰が取るか、未成年の候補者はどうするか

改訂した規約では、録音の実施主体は契約者(求人企業)であり、候補者から事前に適法かつ有効な同意を取得するのは契約者の責任、運営者はプラットフォームの提供者にとどまる、と定めました。運営者が録音を主導しているように読める書き方を避け、求人企業が自社の選考として録音する、という構造を明確にしたものです。

条文例採用支援サービス利用規約 第◯条(録音及び候補者の同意)

  1. 契約者は、本サービスを利用して面接その他の選考の過程を録音するときは、あらかじめ候補者に対し、録音の目的、録音データ及びこれから生成される文字起こし・要約その他の派生データの利用の範囲並びに保存の期間を示し、候補者の同意を得るものとします。
  2. 契約者は、前項の同意を得たことを記録し、当社の求めがあるときはその記録を提示します。
  3. 当社は、前項の同意の取得を補助するため、同意の画面及び記録の機能を提供します。ただし、同意の取得の有無及びその有効性について実質的に審査する義務を負いません。
  4. 候補者は、録音に同意しない場合でも、そのことのみを理由に選考において不利益に取り扱われない旨の説明を契約者から受けることができます。

第4項を置くかどうかは契約者(求人企業)の選考の方針によります。置かない場合でも、同意の任意性を損なう運用にならないよう注意します。

プライバシーポリシーでは、サービスは法人の採用活動の支援が目的で、運営者は原則として契約企業を通じて候補者の情報を扱う、候補者が未成年で法定代理人の同意が必要な場合は契約企業が自己の責任と費用で取得する、運営者は同意の取得の有無を実質的に審査する義務を負わない、運営者が未成年者の情報を直接取得する場合は必要に応じて法定代理人の同意を得る、としました。高校生・大学生のアルバイトの採用にも使われ得る採用SaaSでは、未成年者の同意を誰が取るかを決めておく必要があります。

生成物の使い方と、運営者の位置づけ

AIによる要約や評価の指標は、採用の判断に影響を与えます。規約では「運営者はプラットフォームの提供者にとどまり、採用判断・評価内容・意思表示の主体ではない」と位置づけ、生成物の正確性・公平性・非差別性を保証しない、採用の可否の最終判断は契約者の責任、としました。あわせて、生成物(要約・評価指標)を差別的な判断・不当な排除・労働関係法令の違反となる態様で使うことを禁止しています。

何人も、人種・国籍・信条・性別・社会的身分などを理由に、職業紹介・職業指導などについて差別的な取扱いを受けることはない(職業安定法3条)とされています。AIの評価を採用の判断に使う求人企業に対して、生成物の使い方の禁止事項を規約で示しておくことは、運営者が採用判断の主体でないことを明確にする意味と、利用者に適切な使い方を求める意味の両方を持ちます。

生成物の利用について規約で決めておくこと

  • 生成物は採用判断の参考情報であり、最終判断は契約者が行うこと。
  • 生成物の正確性・公平性・非差別性を運営者が保証しないこと。
  • 生成物を差別的な判断・不当な排除・労働関係法令に違反する態様で使わないこと。
  • 候補者から評価の内容について問合せがあった場合に、誰が対応するか(通常は契約者)。
  • 生成物の保存の期間と、契約終了後の削除又は匿名化。

入力データのAI改善への利用と、「委託」の範囲

同じSaaSの規約では、入力データ(候補者情報を含みます)を「本サービスの提供、維持、運営、改善、品質向上、統計分析及び新機能開発」の目的で無償・非独占的に利用できるとし、プライバシーポリシーの利用目的にも「AIモデルの性能向上」を入れていました。契約が終わった後は、候補者情報を原則90日保存したうえで削除又は匿名化します。

ここには一つ検討すべき論点があります。SaaSの運営者が、求人企業から候補者の個人データの取扱いの委託を受ける立場(個人情報保護法27条5項1号により、委託に伴う提供は第三者提供に当たらないとされる場面)にあるなら、委託された個人データを運営者自身のサービスの改善やAIの学習に使うことは、委託の範囲を超えるのではないか、という点です。委託の範囲を超えた利用と評価されると、第三者提供の同意の問題に戻ることになりかねません。運営者の改善への利用は、個人を識別できない形に加工した統計情報に限る、と書き分けるのが一つの方法です。

設計の要点 入力データの利用目的の書き分け

論点設計理由
運営者による利用候補者情報そのものは契約者のためのサービスの提供の目的に限って利用し、運営者自身のサービスの改善には、特定の個人を識別できない形に加工した統計情報のみを用いる。委託を受けて扱う個人データを、委託の範囲の外で使わない構造にするためです。

契約終了後の扱いも、委託の構造に合わせて書きます。運営者のシステムからは、契約終了後の一定期間(このSaaSでは原則90日)の保存の後に削除又は匿名化する一方、契約者がATS(採用管理システム)への連携や画面のキャプチャで自社に保存した情報は、契約者の責任で削除する、と分けておきます。新卒スカウトのSaaSで企業の「抽出データ」の削除の責任を企業に置いたのと同じ考え方です。採用代行の事業者がこのようなSaaSを使って求人企業の採用を代行する場合は、代行の契約の終了時の引渡しと削除の条と、SaaSの規約の保存の期間がかみ合っているかも確認します(採用代行・採用マーケティングの契約書)。

採用関連業務を含む再委託契約で、生成AIを使うなら事前にサービス・目的・入力する情報・学習への利用の有無を開示して承諾を得る、候補者情報などは入力しない、と定めたのも同じ問題意識です。SaaSの運営者が外部のAIサービスに候補者情報を送るなら、その外部サービスで学習に使われるかどうかまで確認して書く必要があります。

外部のAIサービスと、外国にある第三者への提供

同じSaaSのプライバシーポリシーでは、生成AIのAPI・アクセス解析・外部の認証サービスを利用することがあり、外部のサービス提供者に個人情報の取扱いを委託する場合は監督する、サーバーが外国にある場合は個人情報保護法28条に基づく措置をとる、外部サービスの追加・変更・終了は公表又は通知する、としました。

個人情報保護法28条は、外国にある第三者に個人データを提供する場合、原則として、あらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得ることを求めています(1項)。同意を得ようとするときは、その外国の個人情報の保護に関する制度、その第三者が講じる個人情報の保護のための措置などの情報を本人に提供しなければなりません(2項)。ただし、個人情報保護委員会規則で定める基準に適合する体制を整備している者への提供や、我が国と同等の水準にあると認められる外国として規則で定める国にある者への提供は、この同意の規律の対象外とされ、前者の場合は相当措置の継続的な実施を確保する措置をとり、本人の求めに応じて情報を提供します(3項)。

候補者から自分の情報の開示・訂正・利用停止などを求められたときの窓口も決めておきます。運営者が求人企業から取扱いの委託を受けている情報については、請求に応じる立場にあるのは原則として求人企業であり、運営者は求人企業に請求を取り次ぎ、対応に必要な協力をする、という役割分担が考えられます。一方、候補者が運営者の画面で直接入力した情報のように運営者自身が取得した情報は、運営者が請求に対応します。プライバシーポリシーで取得元を書き分けておくことは、この窓口の振り分けの前提にもなります。

採用SaaSでは、候補者は運営者とも求人企業とも直接の関係が薄く、外国のサーバーやAIサービスの存在を知らないまま面接を受けることが多いので、どの経路で外国に情報が渡るのか、どの措置で対応しているのかを、候補者向けの説明にも書いておくことが大切です。

消費者契約法と責任の制限、規約の変更

改訂した規約の責任制限の条では、「契約者以外の利用者(候補者)に対して当社が責任を負う場合も、法令上許容される範囲で同じ上限を適用する」としました。「法令上許容される範囲で」という留保は、候補者(消費者)との関係では消費者契約法の制約があることを前提にした書き方です。消費者契約法は、事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項や、故意・重大な過失による責任の一部を免除する条項を無効とし(8条1項)、軽過失の場合に限る一部免除の条項も、軽過失にのみ適用されることを明らかにしていなければ無効としています(同条3項)。消費者の利益を一方的に害する条項も無効です(10条)。

規約の変更については、定型約款の変更の規定(民法548条の4)に基づくとしつつ、重大な影響がある変更は合理的な予告期間を設け、同意しない契約者は効力発生日までに解約できる、としました。定型約款の変更は、相手方の一般の利益に適合する場合か、契約の目的に反せず、変更の必要性・変更後の内容の相当性・変更があり得る旨の定めの有無などに照らして合理的な場合に、個別の合意なく行えます(民法548条の4第1項)。候補者は選考の期間だけサービスを使うことが多いので、選考の途中で規約が変わる場合の扱い(変更前の規約で同意した録音データをどう扱うか)も考えておきます。

録音データの利用の範囲を広げる変更(たとえば、それまで要約だけに使っていた録音を評価の指標の算出にも使う変更)は、候補者が同意した目的の範囲を超えるおそれがあるので、定型約款の変更の手続だけで済ませず、新たな同意を得る対象として扱うほうが安全です。規約の変更の条に、利用目的の追加は新たな同意を得て行う旨を書いておくと、変更の手続を選ぶ際の基準になります。

ヒヤリングで確かめること 採用SaaSの規約を作る前の問い

  1. 候補者は、サービスの画面にログインしたり、メッセージを送ったりしますか。

    するなら、候補者を規約の当事者に入れ、同意の画面を用意します。

  2. 録音や文字起こしをするのは、求人企業ですか、運営者ですか。

    録音の実施主体と同意の取得の責任を決めます。

  3. 候補者の情報を、運営者のサービスの改善やAIの学習に使いますか。

    委託の範囲との関係を整理し、統計情報に限るなどの書き分けを検討します。

  4. 外部のAIサービスやサーバーは、どの国にありますか。

    外国にある第三者への提供(個人情報保護法28条)の措置を決めます。

  5. 高校生など未成年の候補者が使う可能性はありますか。

    法定代理人の同意を誰が取るかを決めます。

採用SaaSの規約で起きがちなこと

よくあるご質問

法人向けの採用SaaSでも、候補者向けの規約は必要ですか?

候補者がサービスの画面でメッセージを送ったり、面接の録音に応じたりするなら、候補者もサービスの利用者です。候補者を規約の当事者に入れ、規約とプライバシーポリシーに同意してもらう画面を用意します。

面接を録音してAIで要約するサービスでは、誰が同意を取るのですか?

録音の実施主体(通常は求人企業)が候補者に説明し同意を取る、と規約で決めておきます。サービスの提供者は、同意の画面や記録の仕組みを用意しておくと実務が回ります。

候補者のデータを、自社のAIの改善に使ってもよいですか?

求人企業から個人データの取扱いの委託を受けている立場なら、委託の範囲を超える利用と評価されるおそれがあります。個人を識別できない統計情報に限って使うなど、利用目的を書き分けることを検討します。

海外のAIサービスを使う場合、プライバシーポリシーに何を書けばよいですか?

外国にある第三者への提供(個人情報保護法28条)に当たる場合に、本人の同意、基準に適合する体制の整備などのどの措置で対応しているかと、本人に提供すべき情報を書きます。外部サービスの追加・変更の通知の方法も決めておきます。

AIの評価が差別的だった場合、運営者は責任を負いますか?

規約で、運営者は採用判断の主体ではなく、生成物の公平性を保証しないこと、採用の最終判断は契約者が行うことを定め、生成物を差別的な判断に使うことを禁止しておきます。ただし、候補者との関係では消費者契約法の制約があるため、責任の全部の免除はできません。

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