求職者の個人情報とプライバシーポリシー

人材ビジネスで扱う求職者の情報には、個人情報保護法に加えて職業安定法の規制が上乗せされます。求人企業も義務を負う者に含まれます。

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プライバシーポリシーに「求人企業への提供」とだけあり、人材紹介会社とその紹介先への再提供が書かれていない例は少なくありません。

このページの要点

  • 求職者等の個人情報は、業務の目的の達成に必要な範囲で、目的を明らかにして収集し、その範囲で保管・使用する(職業安定法5条の5)。
  • 求人者も5条の5・51条の義務を負う。基本契約で候補者情報の目的外利用の禁止・返還と消去を定める。
  • 求人企業に出させる資料は、採用の事実と入社日・退職日が分かる最小限に絞る。
  • 求職者と接する業務委託の人員には、持出し・私的な取引・個人のSNSでの連絡・生成AIへの入力の禁止を課す。

人材ビジネスでは、個人情報保護法に職業安定法が上乗せされる

人材紹介・求人サイト・スカウトの事業者が扱う求職者の情報には、個人情報保護法に加えて、職業安定法の規制が上乗せされます。プライバシーポリシーや契約書の個人情報の条は、両方を満たす形で作る必要があります。

求職者の情報にかかる主な規制

規制内容義務を負う者
求職者等の個人情報の取扱い(職業安定法5条の5)業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集し、その目的の範囲内で保管・使用する(本人の同意その他正当な事由がある場合を除く)。適正に管理する措置を講じる職業紹介事業者、求人者、募集を行う者、募集受託者、特定募集情報等提供事業者など
秘密を守る義務(同法51条)業務上知り得た人の秘密を漏らさない。業務に関して知り得た個人情報をみだりに他人に知らせない。従業者でなくなった後も同じ職業紹介事業者、求人者、募集を行う者、特定募集情報等提供事業者など、その代理人・使用人その他の従業者
第三者提供の同意(個人情報保護法27条1項)個人データを第三者に提供するには、原則としてあらかじめ本人の同意を得る個人情報取扱事業者
要配慮個人情報の取得(同法20条2項)病歴・障害などの要配慮個人情報は、原則としてあらかじめ本人の同意を得て取得する個人情報取扱事業者

職業安定法51条1項の違反は30万円以下の罰金の対象です(66条11号)。

目を引くのは、職業安定法5条の5と51条の義務を負う者に「求人者」が含まれていることです。紹介会社から候補者の情報を受け取った求人企業も、その情報を目的の範囲内で使い、みだりに他人に知らせない義務を法律上負っています。紹介会社が求人企業との契約で候補者の情報の扱いを定めるのは、契約上の義務と法律上の義務の両方から説明できる条項です。

求人者から見ると、紹介を受けた求職者の情報を自社の採用以外に使うこと(たとえば別の事業の営業リストに入れること)は、職業安定法上も問題になり得る、ということです。また、求職者の情報を企業に渡すのは、個人情報保護法上は原則として本人の同意が必要な第三者提供で、要配慮個人情報はオプトアウト(本人が停止を求めない限り提供できる仕組み)による第三者提供の対象にできません(27条2項ただし書)。人材ビジネスでは、本人の同意を得て提供する、という形が基本になります。

守る対象は、求職者の情報だけではない

職業安定法51条は、1項で「業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密」を漏らすことを禁じ、2項で、その秘密のほか「業務に関して知り得た個人情報その他厚生労働省令で定める者に関する情報」をみだりに他人に知らせることを禁じています。厚生労働省令で定める者は「法人である雇用主」です(施行規則34条)。つまり、紹介会社は、求職者の個人情報だけでなく、求人企業である法人の情報(求人の背景にある社内の事情、採用計画、待遇の内訳など)についても、みだりに他人に知らせない義務を負っています。人材紹介の基本契約の秘密保持の条を相互の義務として書くのは、この規定とも整合する書き方です。

人材紹介での情報の流れと、手当てする書類

情報の流れ法律上の主な規律手当てする書類・条項
求職者 → 紹介会社・運営者(登録・面談)目的を明らかにして収集(職業安定法5条の5、施行規則4条の4)、要配慮個人情報の取得の同意(個人情報保護法20条2項)求職者向けの利用規約・プライバシーポリシー・登録時の同意画面
紹介会社・運営者 → 求人企業(推薦・スカウト)第三者提供の同意(個人情報保護法27条1項)同意の文言、企業向けの規約・基本契約の候補者情報の条
紹介会社 → 紹介先企業(再提供)同上。再提供まで同意の範囲に入っているか求職者向けの説明、企業用の規約の利用目的の条
求人企業 → 紹介会社(採用の報告・資料)求人企業から見た第三者提供基本契約の報告・資料提出の条(項目を最小限に特定)
紹介会社 → 業務委託の人員・外部サービス委託先の監督、外国にある第三者への提供(個人情報保護法28条)業務委託契約・秘密保持契約の個人情報の条、プライバシーポリシーの委託・越境移転の記載

求人者に課す「候補者情報」の利用制限

事務所では、人材紹介契約書の論点として「候補者=契約に判を押さない第三者の個人情報の目的外利用の禁止・返却・消去」を整理しています。候補者は紹介会社と求人企業の契約の当事者ではないので、候補者の情報を守る約束は、紹介会社が求人企業に課すしかありません。

採用支援基本契約では、応募者の情報を選考の目的以外に使わない、第三者に開示しない、契約終了時に削除し、運営者が削除証明書の提出を求められる、と定めました。外国人材の紹介契約では、双方が個人情報保護法を遵守し、紹介人材の個人情報を目的外に利用せず第三者に提供しない、漏えい時は報告と是正の措置をとる、としています。送客契約では、両当事者が求職者の個人情報について利用目的を明確にして本人の事前の同意を得る、同意なく第三者に提供しない、保管は必要最短限、と定めました。

条文例人材紹介基本契約書 第◯条(候補者情報の取扱い)

  1. 乙は、甲から提供を受けた候補者の氏名、経歴その他の情報(以下「候補者情報」といいます。)を、当該候補者の選考及び採用の手続の目的にのみ利用し、その他の目的に利用しません。
  2. 乙は、候補者情報を、選考に関与する乙の役員及び従業員以外の者に開示せず、甲の書面による承諾なく第三者に提供しません。
  3. 乙は、候補者を採用しないことを決定したとき、又は甲から求めがあったときは、候補者情報を記録した書面及び電磁的記録を遅滞なく返還又は消去し、甲の求めがあるときは消去したことを証する書面を交付します。
  4. 乙は、候補者情報の漏えい、滅失又は毀損が生じ、又はそのおそれがあることを知ったときは、直ちに甲に報告し、甲と協議のうえ是正の措置をとります。

甲=紹介会社、乙=求人者。乙も職業安定法5条の5・51条の義務を負う立場にあることを、契約で具体化したものです。

資料提出の義務と、求人者の従業員情報

反対向きの情報の流れにも注意が必要です。採用支援基本契約では、成果報酬の確認のため、依頼企業に雇用契約書・労働条件通知書・業務委託契約書・入社手続の書類・勤怠記録・給与支払記録の提出義務を課し、正当な理由なく拒めば採用があったものと推定する設計でした。

依頼企業から運営者への従業員の情報の提供は、依頼企業の側から見ると第三者提供(個人情報保護法27条1項)になり得ます。提出書類は「採用の事実と入社日・退職日が分かる最小限の資料」に絞り、給与額などはマスキングを認める書き方が現実的です(直接採用・中抜き対策)。早期退職の確認や6か月以内の離職者数の確認のための照会も、照会できる事項を契約で特定しておくと、求人企業が安心して回答できます(返金規定)。

「取得しない」設計と「段階的に見せる」設計

プライバシーポリシーの作り方は、事業の型によって大きく二つに分かれます。

求職者情報の扱いの二つの設計

取得しない設計(地域求人サイト)

  • 取得方法を掲載企業の登録フォーム等に限る
  • 求職者の履歴書・応募情報は取得・管理しないと明記
  • 職業安定法5条の5の求職者情報の義務の多くが、そもそも生じない設計になる

段階的に見せる設計(新卒スカウトSaaS)

  • 企業への提供は学生本人の明示的な同意が条件
  • 直接識別情報は非公開、項目ごとのマスク設定
  • 退会で即時失効、匿名加工情報は企業に提供しない

取得しない設計を選ぶなら、プライバシーポリシーの「取得しない」という宣言と、サイトの実際の機能(応募フォームの有無、問合せフォームで履歴書を受け付けていないか)が一致していることを確認します。段階的に見せる設計なら、スカウト・送客サービスの規約で触れたとおり、企業向けの契約と求職者向けのポリシーで見せる項目を一字一句そろえます。

取得しない設計で見落としやすいのは、運営者の問合せフォームや公式のSNSアカウントです。求人に関する質問を受け付けるフォームに添付ファイルの欄があり、求職者が履歴書を送ってくれば、運営者は結果として求職者の情報を受け取ることになります。添付を受け付けない、受け取った場合は返却又は削除する、という運用までプライバシーポリシーの宣言とそろえておきます。サービスが成長して「応募の代行」や「おすすめの求人の個別の案内」を始めるときが、取得しない設計から段階的に見せる設計へ切り替える時点で、規約・ポリシー・事業の型の見直しが必要になります。

プライバシーポリシーに書く項目

職業安定法5条の5は、求職者等の個人情報を収集する際に「目的を明らかにして」収集することを求め、その方法はインターネットの利用その他の適切な方法によるとされています(施行規則4条の4)。募集情報等提供事業を行う者は、求職者の個人情報を適正に管理するために講じている措置を、インターネットなどで情報提供するよう努める必要もあります(43条の6、施行規則31条の4第2項1号)。これらを踏まえて、人材ビジネスのプライバシーポリシーでは次の項目を確認します。

人材ビジネスのプライバシーポリシーで確認する項目

  • 取得する情報を、求職者・企業の担当者・Cookie等に分けて列挙しているか。
  • 取得の方法(本人から、利用企業から、外部の認証サービスから、自動取得)を書き分けているか。
  • 利用目的に「求人企業への提供」だけでなく、人材紹介会社とその紹介先への再提供が必要なら書いているか。
  • 提供先・提供する項目・提供の方法(画面閲覧かデータの受渡しか)を、企業向けの契約と同じ内容で書いているか。
  • 健康状態・障害など要配慮個人情報を取得する場合、取得の同意を得る手順があるか。
  • 退会・卒業後の扱いと、企業の側に保存された情報の削除の責任を書いているか。
  • 個人情報を適正に管理するための措置(安全管理措置)の概要を情報提供しているか。

条文例求職者登録時の同意の文言(例)

  1. 私は、当社が、私の登録情報(氏名、連絡先、学歴、職歴、資格、希望条件その他の登録内容をいいます。)を、私の求職活動の支援及び職業紹介の目的で利用することに同意します。
  2. 私は、当社が、私が応募を希望した求人企業、及び当社が紹介を提案し私が了承した求人企業に対し、選考のために必要な範囲で私の登録情報を提供することに同意します。
  3. 私は、提供先に人材紹介会社が含まれる場合、当該人材紹介会社が、その紹介先の企業に選考のために私の登録情報を提供することがあることを理解し、これに同意します。
  4. 私は、健康状態に関する情報を任意に登録した場合、当社がその情報を就業上の配慮の確認のために取得し、私の同意を得た求人企業にのみ提供することに同意します。

提供先・目的・再提供・要配慮個人情報を、別々の文で同意の対象として示す例です。第3項は再提供を認める設計の場合だけ置きます。

同意の文言は、プライバシーポリシーの全文を読ませて一括で同意させるだけでなく、提供先の範囲や再提供のように求職者の判断に影響する事項を、登録の画面で個別に示すほうが、同意の範囲を後から争われにくくなります。規約やポリシーを改訂して提供先を広げる場合は、既存の登録者の同意の範囲を超えないかを確認します。

応募フォームの項目にも注意が必要です。健康状態・障害・既往歴を自由記述で集めると、要配慮個人情報を同意なく取得することになりかねません。応募フォームは業務の目的に必要な範囲に絞り、目的と関係の薄い項目(家族構成など)を漫然と入れないようにします。職業安定法48条に基づいて、厚生労働大臣は5条の5などに関する指針を公表することとされているので、項目の選び方は指針の内容とあわせて確認します。

保存の期間も決めておきます。職業安定法5条の5は、収集の目的の範囲内で保管することを求めているので、目的を終えた情報を漫然と持ち続けることは避けるべきです。求職者送客の契約では、両当事者が求職者の個人情報の保管を必要最短限とする、と定めていました。プライバシーポリシーでは、登録を続けている求職者の情報、退会した求職者の情報、選考で不採用となった候補者の情報(求人企業の側)について、それぞれいつまで保管し、いつ削除又は匿名化するかを書き分けます。企業向けの契約にも同じ期間を書いておかないと、運営者は削除したのに企業の側に情報が残る、という食い違いが生じます。

削除の代わりに匿名化する場合は、匿名化した情報を何に使うかもポリシーに書きます。新卒スカウトのSaaSでは、匿名加工情報を学術研究のために保持・分析し、提供先を秘密保持契約を結んだ研究機関などに限り、利用企業には提供しない、としていました。採用の傾向の分析などに使う統計情報と、特定の個人を識別できる情報を、ポリシーの上でも別のものとして扱っておくと、求職者への説明が分かりやすくなります。

漏えいへの備えも契約の中で決めておきます。外国人材の紹介契約で「漏えい時は報告と是正措置」と定めたように、漏えい又はそのおそれを知ったときに、誰が、いつまでに、誰へ報告するかを、基本契約・業務委託契約の両方に置き、報告を受けた側が本人への連絡や再発防止の措置をとれるようにしておきます。

求職者と接する外部の人員に課す義務

求職者と1対1で接する業務委託のキャリアアドバイザーや、候補者と連絡を取る外部の人員は、個人情報の持出しと私的な取引のリスクが高い立場です。事務所の資料では、次のような条項を置いていました。

外部の人員に課した個人情報の条項(事務所の資料から)

相手方主な定め
キャリア支援を担う個人の受託者業務の目的の範囲でのみ利用、委託者の承諾なく第三者に提供しない、複製・保存・持出し・クラウド等への保存は業務上必要最小限で安全管理措置を講じる、終了時は返還・削除・廃棄、委託者の承諾なく国外の第三者に再委託せず業務関連情報を国外に移転しない、利用者との金銭の授受・貸付・投資の勧誘などの私的な取引の禁止、委託者を介さない直接の契約・競合サービスへの誘導の禁止
配信者の事務所の運営スタッフ業務上の連絡は事務所の指定する公式の連絡手段に限り、個人のSNS・DMで業務連絡をしない、重要事項は口頭でなく記録の残る手段で、生成AIに個人情報・顧客情報・秘密情報を入力しない、返信文の作成に使う場合も個人情報を入れず出力を自分で確認する
採用関連業務を含む再委託先生成AIを使うなら、事前にサービス・目的・入力する情報・学習への利用の有無を開示して承諾を得る、候補者情報などは入力しない

業務委託の人員は委託者の従業者ではないこともありますが、職業安定法51条は事業者の「代理人、使用人その他の従業者」にも秘密を守る義務を課しています。契約書で個人情報の取扱いを具体的に定めておくことは、事業者自身が義務を守るための手段でもあります(キャリアアドバイザーとの業務委託契約)。

AIを使った面接の録音・文字起こし・評価のサービスでは、候補者の情報の取得元の書き分け、録音の同意を誰が取るか、AIの学習への利用、外国のサーバーの扱いといった論点がさらに加わります。これらは採用管理・AI面接SaaSの利用規約で扱います。

ヒヤリングで確かめること プライバシーポリシーを作る前の問い

  1. 求職者の履歴書や応募情報を、自社のシステムで受け取りますか。

    取得しない設計なら、その宣言と実際の機能を一致させます。

  2. 求職者の情報を渡す先は、求人企業だけですか。人材紹介会社やその紹介先も含みますか。

    再提供まで同意の範囲に入れるかを決めます。

  3. 応募フォームで、健康状態や障害について尋ねますか。

    尋ねるなら、要配慮個人情報の取得の同意の手順を用意します。

  4. 求職者とやり取りする外部の人員はいますか。

    業務委託契約に個人情報・私的取引・連絡手段の条を置きます。

  5. 外国のサーバーや外部のAIサービスを使いますか。

    外国にある第三者への提供(個人情報保護法28条)を検討します。

求職者の個人情報で起きがちなこと

よくあるご質問

求職者の情報を求人企業に渡すとき、同意は必要ですか?

個人情報保護法上の第三者提供に当たるため、原則として本人の同意が必要です(27条1項)。職業安定法5条の5により、収集の際に業務の目的を明らかにし、その範囲で使う義務もあります。

紹介を受けた求人企業にも、個人情報の義務はありますか?

あります。職業安定法5条の5と51条は、求人者も義務を負う者として定めています。紹介会社との契約でも、候補者情報の目的外利用の禁止・第三者への提供の禁止・返還と消去を定めておきます。

応募フォームで聞いてはいけない項目はありますか?

業務の目的の達成に必要な範囲で収集するのが原則です(職業安定法5条の5)。健康状態や障害などの要配慮個人情報は、取得にあらかじめ本人の同意が必要です(個人情報保護法20条2項)。項目の選び方は、職業安定法48条に基づく指針の内容もあわせて確認します。

紹介会社が求人企業から入社後の給与記録を出してもらうことはできますか?

求人企業にとっては従業員の個人データの第三者提供になり得ます。手数料の確認に必要な最小限(入社日・退職日・年収の確認資料)に絞り、項目を契約で特定しておくのが現実的です。

求人サイトで履歴書を受け取らないなら、プライバシーポリシーは簡単でよいですか?

取得しない情報を書く必要はありませんが、「取得しない」ことを明記し、サイトの実際の機能と一致させることが大切です。掲載企業の担当者の情報やCookie等の情報は取得するので、その利用目的と管理の措置は書きます。

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