人材紹介契約書(有料職業紹介の基本契約書)の作り方

人材紹介契約書は、取引の大枠を基本契約で定め、候補者ごとの条件を推薦書や採用決定の記録で補う構造が扱いやすくなります。

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紹介人数を「概ね◯名程度」と書くと、予定を超えて紹介したときに手数料が発生するのか、契約の範囲外なのかが争いになります。

このページの要点

  • 冒頭に有料職業紹介事業の許可番号を書き、紹介の流れを段階で定め、求人者の情報提供義務を置く。
  • 「紹介による採用」の基準と推薦の有効期間、直接応募との重複の確認の手続を決める。
  • 内定取消は、対象の時期・金額・通知・免除事由の4点で組む。外国人材では在留資格の不許可を免除事由に明記する。
  • 基本契約・推薦条件・求人票の優先順位を定め、手数料表をその外側の上限として書く。

人材紹介契約書は「大枠の基本契約+候補者ごとの記録」で組む

人材紹介契約書(有料職業紹介事業者が求人企業と結ぶ基本契約書)は、取引の大枠を基本契約で定め、候補者ごとの条件は推薦書や採用決定の記録で補う構造が扱いやすいと考えています。基本契約に置くのは、紹介の流れ、手数料の算定方法と支払、返金、直接採用の禁止、個人情報、秘密保持、損害賠償、契約期間です。職種・想定年収・入社日といった候補者ごとの条件は、案件ごとに変わるので、推薦の記録や採用決定の通知で特定します。

民法上、紹介会社と求人者の契約は、雇用関係の成立のあっせんを委託する準委任(成功報酬型)と整理されることが多いと考えられます。そのため、紹介会社が何をする債務を負うのか、何をもって「紹介による採用」とするのかを、基本契約の言葉で決めておく必要があります。事務所では、次の点を人材紹介契約書に固有の論点として整理しています。

  • 「紹介の成立」の定義:どの時点のどの行為をもって紹介会社の紹介による採用とするか。複数の紹介会社から同じ候補者が推薦された場合の優先順位と、推薦の有効期間。
  • 業務委託のひな型から流用されがちな「報告義務」「再委託」などの条項は、人材紹介に合わないことが多い。
  • 候補者は契約書に判を押さない第三者であり、その個人情報の目的外利用の禁止・返却・消去を求人企業に約束させる。

冒頭に許可番号を書き、紹介の流れを段階で定める

外国人材の紹介会社と求人法人の紹介契約では、前文で紹介会社を外国人材の有料職業紹介を専門とする会社とし、職業安定法30条に基づく有料職業紹介事業の許可番号を当事者の表示に併記しました。求人企業から見ると相手が許可業者であることを契約書の上で確認でき、紹介会社から見ると許可を前提にした契約であることが明示されます。

同じ契約では、紹介の流れを条文で段階化しています。

基本契約に書いた紹介の流れ

  1. 求職者の募集紹介会社が国内外のネットワークで求職者を募る
  2. 候補者の人選求人者が示した業務内容・採用条件に基づいて人選する
  3. 面接の調整日程の調整、通訳などの支援を含む
  4. 内定後の手続入社に向けた手続の支援(外国人材では在留手続の支援)

求人の受付から入社までの目安の期間を示し、審査の状況などで前後することを求人者が了承する、という一文も置きました。

あわせて、求人者は必要な求人情報・業務内容・職場環境などを誠実に提供する義務を負う、と書きました。紹介会社の債務の中身を具体化しておくと、紹介がうまくいかなかったときに「紹介会社が何をしなかったのか」という争点がはっきりします。

求人者の情報提供義務は、法律上の流れを契約に落としたものでもあります。求人者は、求人の申込みに当たり、紹介事業者に対して業務の内容、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(職業安定法5条の3第2項)。紹介事業者も求職者に対して明示し(同条1項)、求人者が紹介された求職者と労働契約を結ぶ際に、明示した条件を変更する場合などは、その内容を明示します(同条3項)。基本契約に「求人者は求人票の内容を正確に提供し、変更があれば速やかに通知する」義務を置くのは、この流れを契約上の約束にしたものです。

紹介事業者は求人の申込みをすべて受理するのが原則ですが、内容が法令に違反する申込み、労働条件が通常と比べて著しく不適当な申込み、労働関係法令の違反で処分・公表等を受けた者からの申込み、労働条件の明示がない申込み、暴力団員等からの申込みなどは受理しないことができます(5条の6第1項)。基本契約の反社会的勢力の排除の条や表明保証は、この受理しないことができる事由とつなげて書くと、一貫したものになります。

条文例人材紹介基本契約書 第◯条(求人の内容に関する乙の表明保証)

  1. 乙は、甲に対して求人の申込みをするに当たり、業務の内容、賃金、労働時間その他の労働条件を、書面又は電磁的記録により正確に明示します。
  2. 乙は、前項の求人の内容が法令に違反するものでないこと、及び乙が労働に関する法律の規定の違反に関して法律に基づく処分、公表その他の措置を受けていないことを表明し、保証します。
  3. 乙は、求人の内容に変更が生じたとき、又は前項の表明に反する事実が生じたときは、直ちに甲に通知します。
  4. 甲は、乙の求人の申込みが職業安定法第5条の6第1項各号のいずれかに該当すると認めるときは、その申込みを受理せず、又は受理した申込みに係る紹介を中止することができます。

甲=紹介会社、乙=求人者。求人の申込みを受理しない場合の根拠を契約の上でも明らかにしておく例です。

支払の条では、外国人材の紹介契約で、支払期限を請求書の発行日から短期に定め、振込手数料を求人者の負担と明記しました(紹介手数料の設計)。手数料の発生時点ごとに請求書を発行する設計にした場合は、どの請求書がどの発生時点の手数料かを請求書の記載で特定できるようにしておくと、返金や内定取消のときの精算が混乱しません。

紹介人数・業務範囲・就労地域を確定させる

設計の要点 対象となる紹介の範囲

論点設計理由
紹介人数紹介人数は「概ね◯名程度」とせず、協議で確定した人数で書く。協議で人数が確定したことを受けて条文の人数も確定させ、予定を超えて紹介した場合に手数料が発生するのか、契約の範囲外なのかが争点にならないようにしました。
対象業務対象業務を在留資格で認められる範囲に限定し、変更は書面合意とする。紹介人材が従事できる業務の範囲を、契約の段階で両者が確認しておくためです(外国人材の紹介契約)。
就労地域原則として求人者が指定する一定の地域内の事業所とし、変更がある場合は事前に書面で協議する。就業の場所は求人者が明示すべき労働条件の一つです。求人票の条件と実際の配属の食い違いを防ぎやすくなります。

「紹介による採用」の定義と、推薦の有効期間

成果報酬型の人材紹介で、手数料が発生するかどうかを決めるのは「紹介による採用」の定義です。候補者の情報を送った時点を基準にするのか、求人者が面接を希望した時点か、面接を実施した時点かで、他の紹介会社や直接応募と競合したときの結論が変わります。同じ候補者が複数の紹介会社から推薦されることは珍しくないので、どの記録をもって「先に推薦した」とするのか(推薦書の送信日時など)まで決めておきます。

条文例人材紹介基本契約書 第◯条(推薦及び紹介による採用)

  1. 甲は、候補者を推薦するときは、候補者の同意を得たうえで、推薦書(電磁的記録を含みます。)を乙に送信します。推薦書の送信日時を推薦日とします。
  2. 乙は、推薦書を受信した日から5営業日以内に、当該候補者について、既に他の紹介事業者からの推薦又は本人からの直接の応募を受けているときはその旨及び受けた日を甲に通知します。通知がないときは、甲の推薦が最初の推薦であったものとみなします。
  3. 乙又は乙の関連会社が、推薦日から12か月以内に、推薦を受けた候補者と雇用契約を締結したときは、その経路を問わず、甲の紹介による採用とします。ただし、前項の通知により、甲の推薦日より前に他の紹介事業者の推薦又は本人の応募があったことが確認された場合は、この限りではありません。
  4. 推薦日から12か月を経過した後の採用は、甲が改めて推薦した場合を除き、甲の紹介による採用には当たりません。

期間・日数は例です。関連会社の範囲を広げすぎると求人者が把握できない採用まで対象になるので、定義を置きます(直接採用・中抜き対策)。

推薦の有効期間を置かないと、何年後の採用でも手数料が発生するように読めてしまい、かえって条項全体の合理性が疑われます。逆に、有効期間を置くことで、求人企業の側も「この期間内の採用は報告する」という行動を取りやすくなります。直接応募との重複の扱いを求人企業からの通知で確定させる書き方は、どちらが先かの証拠を契約の手続の中で残すための工夫です。

内定取消の条は、時期・金額・通知・免除事由の4点で組む

内定取消は、紹介会社にとっては手数料の根拠が消える場面、求人企業にとってはやむを得ない事情で採用を見送る場面です。外国人材の紹介契約では、次の4点で組みました。

設計の要点 内定取消

論点設計理由
対象の時期「内定決定後、入社日前まで」と時間で区切る。入社後の退職は返金規定の問題で、内定取消とは別の条で扱います。
金額「内定時に発生する手数料部分」と定め、支払済みなら返還しないと明記する。分割払いの区分と内定取消の条を一致させるためです。
通知取消の理由と予定日を、書面又は電磁的記録で7営業日前までに通知する(やむを得ない場合も速やかに通知し協力する)。紹介会社が候補者に連絡し、次の紹介に動くための時間を確保します。
免除事由天災・行政指導・在留資格の不許可その他求人者の責めに帰さない事由なら、全部又は一部を免除できる。外国人材では「在留資格が下りなかった」ことが典型的な不成立の事由なので、例示に明記するのが実務上の要です。

内定取消の際に受ける金員が、手数料規制(32条の3)との関係でどう扱われるかは、「違約金」という名目で書くか、手数料表に定めた内定時の手数料として書くかで整理が変わり得ます。「内定時に発生する手数料部分」と書くのは、手数料表に定めた発生時点との対応をはっきりさせる意味もあります(紹介手数料の設計)。

文書の優先順位、損害賠償の手続、自動更新

文書の優先順位

人材紹介では、基本契約・候補者ごとの推薦条件・求人票・手数料表の四つが並ぶので、どれが優先するかの一文がないと、手数料率や返金期間の食い違いがそのまま紛争になります。事務所が作成した新卒スカウトのSaaSの企業向け規約では「個別の契約書又は発注書→見積書・仕様書→規約→利用ガイド・FAQ」、採用関連業務の再委託契約では「個別契約又は発注書→本契約→仕様書→承認済みの見積書→その他の資料」と明記しました。

条文例人材紹介基本契約書 第◯条(契約文書の優先順位)

  1. 本契約、個別の推薦条件を記載した書面(電磁的記録を含みます。以下「推薦条件書」といいます。)及び求人票の内容が相互に抵触するときは、推薦条件書、本契約、求人票の順に優先して適用されます。
  2. 前項にかかわらず、紹介手数料の種類、額及び負担者については、甲が厚生労働大臣に届け出た手数料表の範囲を超えて定めることはできず、これを超える部分は効力を生じません。
  3. 甲及び乙が本契約の条件を変更するときは、書面又は電磁的記録による合意によるものとします。

甲=紹介会社、乙=求人者。手数料表を「優先順位の外側の上限」として書いておくと、個別の合意で手数料表を超える額を約束してしまう事故を防げます。

損害賠償の手続と上限

外国人材の紹介契約では、損害賠償を相当因果関係の範囲に限り、相手方が損害額と発生の根拠を合理的・客観的に証明した場合に支払う、請求書の受領後30日以内に異議の有無を通知する、異議がなければ請求日から60日以内に支払う、軽過失による損害は賠償しない(第三者に著しい被害を与えた場合を除く)、賠償の総額は実際に支払われた紹介手数料の総額を上限とする(故意・重大な法令違反を除く)、と定めました。人材紹介の基本契約に、賠償請求の手続(通知・異議・支払期限)まで書く例は多くありませんが、トラブルのときの進め方を先に決めておく工夫です。秘密保持義務は契約終了後3年間存続させています。

秘密保持は相互の義務として書く

人材紹介の秘密保持の条は、候補者の情報を守る求人者の義務だけに目が向きがちですが、紹介会社も求人企業の情報を預かります。採用の背景にある組織の変更、新規事業の計画、待遇の内訳、退職者の事情などは、求人票を作る過程で紹介会社に伝わる情報です。職業安定法51条2項は、職業紹介事業者に、業務に関して知り得た個人情報のほか、法人である雇用主に関する情報(施行規則34条)をみだりに他人に知らせないことを求めています。基本契約の秘密保持の条を相互の義務として書き、紹介会社の側が求人企業の情報を他の求職者への説明や他の求人企業への営業に流用しないことを明記しておくと、求人企業の側も安心して詳しい情報を出せるようになり、紹介の精度も上がります(求職者の個人情報とプライバシーポリシー)。

自動更新と条件の見直し

有効期間は1年、満了の1か月前までに書面又は電磁的記録で終了の通知がなければ同一条件で1年自動更新、通知は内容証明郵便や送信履歴を保存する電子メールなど到達を確認できる手段で行い到達時に効力を生じる、自動更新後も協議で期間中に条件を見直せる、としました。手数料表を変更した場合に既存の契約の条件をどう見直すかの受け皿にもなります。

報告義務・採否の通知と、ひな型から流用した条項

成果報酬型の契約では、採用の事実を紹介会社が知る手段を契約で確保しておく必要があります。採用支援基本契約では、依頼企業は応募者の選考状況・採否・入社予定日・入社日・退職日を求めに応じて速やかに報告し、採否が決まったら決定日から5営業日以内に通知する、報告義務に違反しても報酬の支払義務は影響を受けない、と定めました。報告の期限と、報告がなくても報酬は発生することを分けて書くのが、成果報酬型の基本契約の要点です。報告の範囲を広げすぎると求人者側の個人情報の扱いとの関係が生じる点は、直接採用・中抜き対策で扱います。

人材紹介の契約書は、一般的な業務委託契約のひな型から作られていることが少なくありません。事務所でも、ひな型由来の不要な条項の削除を、人材紹介契約書の典型的な論点として整理しています。よく見かけるのは次のような条項です。

業務委託のひな型から流用されがちな条項と、人材紹介での扱い

ひな型の条項人材紹介での問題置き換えの方向
業務の再委託の禁止・承諾紹介業務を他の者に行わせる設計は、名義貸しの禁止(32条の10)や候補者の個人情報の第三者提供の問題と関わる再委託の可否ではなく、他の事業者への候補者情報の提供の禁止として書く
月次の業務報告紹介会社の債務は成功報酬型の準委任で、定期報告の対象になる作業がない推薦・選考の状況の共有と、求人者の採否の報告に置き換える
成果物の検収・契約不適合人材は成果物ではなく、検収や修補の考え方に合わない返戻金制度と、代替の紹介の条で手当てする
委託料の月額払い成功報酬型と合わず、月額連動型でも離職時の扱いが書けない手数料表に合わせた発生時点・支払期限の条にする

求人者から受けた原案を紹介会社がレビューする場合、逆に紹介会社が出した契約書を求人企業がレビューする場合も、まずこの表の条項が残っていないかを確かめると、契約書全体の作られ方が見えてきます。

ヒヤリングで確かめること 基本契約を作る前の問い

  1. 有料職業紹介の許可番号と、届け出た手数料表の内容を教えてください。

    前文に許可番号を書き、手数料の条を手数料表に合わせます。

  2. 「紹介による採用」とする基準は、推薦書の送付、面接の設定、内定のどれですか。

    複数の紹介会社の競合や直接応募との重複の判定に使います。

  3. 推薦の有効期間を、推薦から何か月にしますか。

    何年後の採用でも手数料が発生する読み方を防ぎます。

  4. 内定取消のとき、どの部分の手数料をどの範囲で受けますか。免除する事由は何ですか。

    時期・金額・通知・免除事由の4点で条を組みます。

  5. 候補者の情報を、求人者にどの範囲で渡しますか。返却・消去はいつですか。

    候補者は契約の当事者ではないので、求人者に義務を課す条が必要です。

基本契約で起きがちなこと

よくあるご質問

人材紹介の基本契約と個別の契約は分けたほうがよいですか?

取引の大枠(手数料の計算方法、返金、直接採用の禁止、個人情報)は基本契約に、候補者ごとの職種・年収・入社日は推薦書や採用決定通知で記録する形が扱いやすいです。両者が食い違ったときの優先順位も基本契約に書いておきます。

内定を取り消されたとき、手数料を請求できますか?

契約で定めておけば、内定時点の手数料を請求する設計は可能です。ただし、在留資格の不許可など求人企業の責任でない事由まで一律に請求すると争いになりやすいため、免除事由と通知の期限を書いておきます。

求人企業の立場で、紹介会社の契約書のどこを確認すべきですか?

許可番号、手数料の計算の基礎(年収の定義)、発生時点、返金の期間と割合、直接応募との重複の扱い、推薦の有効期間、候補者情報の取扱いです。

紹介した後に労働条件が変わった場合、何が必要ですか?

求人企業は、求職者に明示された条件を変更して労働契約を結ぶ場合、変更の内容を明示する必要があります(職業安定法5条の3第3項)。基本契約にも、求人票の変更を紹介会社に通知する義務を置いておきます。

人材紹介契約書に損害賠償の上限を置いてもよいですか?

事業者どうしの契約なので、支払済みの紹介手数料の総額を上限とするなどの定めは置けます。故意や重大な違反を上限の対象外にし、請求の通知・異議・支払期限まで決めておくと、トラブル時の進め方が明確になります。

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