このページの要点
- 企業から報酬を受けて求職者を勧誘するなら委託募集の許可・報酬額の認可(職業安定法36条1項・2項)の検討が先。
- 応募者への対応・選考・採否は依頼企業が行い、受託者は関与しないと書く。一次対応をするなら範囲と判断をしないことを明記。
- 求人広告の文言は依頼企業が承認し、承認の記録を残す。媒体・SNSアカウントは名義と返還の期限を決める。
- 採用人数を保証しないなら準委任型である旨を明記し、採用計画の中止による中途終了の精算を決める。
採用代行は「事務の代行」「募集への従事」「あっせん」の三層で考える
採用代行(RPO=企業の採用業務の全部又は一部を外部が請け負うサービス)、採用マーケティング、採用広報の代行の契約書を作るとき、最初に確かめるのは、受託者の業務が職業安定法のどの層に当たるかです。同じ「採用支援」という名前でも、業務の中身によって、許可が要らないもの、委託募集の許可が問題になるもの、有料職業紹介の許可が問題になるものに分かれます。
採用代行の業務と、職業安定法上の整理
| 業務の例 | 整理 | 契約書での扱い |
|---|---|---|
| 求人原稿の作成、求人媒体・SNSの運用、LPの制作、応募管理システムの提供、日程調整の事務 | 募集を行う企業の事務の代行。原則として許可の規制の対象外と考えられる | 成果物と作業に業務を限定して書く |
| 企業から報酬を受けて、企業の被用者以外の者が、求職者にその企業の被用者となるよう勧誘する | 委託募集。厚生労働大臣の許可と報酬額の認可(職業安定法36条1項・2項)。報酬なしなら届出(同条3項) | 勧誘をするなら、許可の要否の検討が先。しないなら「勧誘しない」と書く |
| 求職者を個別に選んで企業に推薦し、雇用の成立をあっせんする | 職業紹介。有料なら許可(30条1項) | 推薦・取次ぎ・条件の交渉をしない、と書く |
どの行為が「募集に従事」に当たるかの区分は、業務の実態で判断されます。
委託募集に当たる場合、募集受託者は募集に応じた労働者から報酬を受けてはならず(39条)、企業は認可された報酬以外を募集受託者に与えてはなりません(40条)。採用代行の事業者が求人企業の求人情報を広告に出す立場になる場合は、虚偽・誤解を生じさせる表示の禁止(5条の4第1項)や、正確・最新に保つ義務(同条2項。募集受託者も対象)を、求人企業とともに負う立場になり得ます。
このページでは、事務所が作成した採用マーケティングの業務委託契約、求人媒体と採用支援を組み合わせた事業者の採用支援基本契約、採用支援・広告・Web制作をまとめて再委託する基本契約を素材に、採用代行の契約書で決めておくことを整理します。許可を持つ前提か持たない設計かの確定は、事業の型と許可・届出の要否で扱っています。
応募者対応を誰が行うかを、最初に書く
採用マーケティングの業務委託契約(受託者の側からのご依頼)では、業務を、採用広報を目的とするショート動画SNSのアカウントの開設と動画の企画・撮影・編集・投稿、採用LPの制作・保守、公式の連絡アカウントの開設と応募への導線(シナリオ型のメッセージ)の設計としました。そのうえで、連絡アカウントの項目に「応募者対応は依頼企業の責任において実施されるものとし、受託者は関与しない」と明記しています。
受託者が応募者と直接やり取りして勧誘・選考に関与しない形にしておくと、委託募集や職業紹介に当たりにくくなると考えられます。成果物(動画・LP)と運用の作業に業務を限定した書き方です。一次対応を受託者が行う場合は、その範囲(受付の連絡、日程の候補の提示など)と、勧誘や合否の判断をしないことを明記します。
条文例採用マーケティング業務委託契約書 第◯条(応募者への対応)
- 本業務により設置した応募の導線を通じて寄せられた応募及び問合せへの対応、選考並びに採否の決定は、乙が自らの責任において行い、甲はこれに関与しません。
- 甲は、乙の書面又は電磁的記録による指示がある場合に限り、応募の受付の確認及び面接の日程の候補の送付を代行することができます。この場合、甲は、応募者に対して乙への就職を勧誘し、又は採否に関する意見を述べてはなりません。
- 甲は、応募者から労働条件その他の採用に関する質問を受けたときは、自ら回答せず、速やかに乙に引き継ぎます。
甲=受託者、乙=依頼企業。第2項の代行は事務の範囲にとどめ、勧誘・判断に踏み込まないことを明記しています。
採用関連業務を含む再委託契約でも、受託者は採用媒体のアカウントなどを業務の範囲を超えて使わない、委託者やクライアントを代理して採用・内定などの法的拘束を生じさせる行為をしない、職業紹介を自己の名義で行わない、採用の最終決定を行わない、応募者・候補者に採用の結果や評価を無断で開示しない、と定めました。採用の「最終決定」と「意思表示」を受託者の業務から外すことが、どの契約でも共通の要点です。
業務一覧の書き方と、媒体アカウントの名義・返還
求人媒体と採用支援を組み合わせた事業者の採用支援基本契約では、業務に「求人媒体の運用支援」「求人原稿の作成及び改善提案」「応募者募集支援」「応募者情報の提供」「応募者との連絡調整支援」「採用コンサルティング」「採用後の定着支援」を並べ、利用する媒体の選定・変更に依頼企業は異議を述べない、媒体アカウントの管理権限を受託者に付与し、登録メールアドレスを受託者の管理するものに変更できる、としていました。
このうち「応募者募集支援」「応募者との連絡調整支援」は、それが勧誘・あっせんに及ぶかどうかで、委託募集・職業紹介の要否が変わります。「応募者情報の提供」も、受託者が自ら集めた求職者の情報を提供するのであれば、特定募集情報等提供(4条7項)との関係が生じます。業務の名前だけを並べるのではなく、それぞれの業務で受託者が具体的に何をし、何をしないかを書くことが必要です。
媒体アカウント・SNSアカウントの名義の決め方
受託者の名義・管理で運用する
- 依頼企業がログイン情報を提供し、管理者用のアドレスを受託者に変更
- 契約終了時の返還の期限を日数で決める
- 例:解約の通知から7日以内にログイン情報を返還し、管理者用アドレスを元に戻す
最初から依頼企業の名義で作る
- 新たに作るアカウントは、委託者又はクライアントが所有者・管理者となる方法で作成
- 受託者には必要な権限だけを付与
- 終了時は権限を外すだけで済む
前者は求人掲載契約・採用支援基本契約、後者は採用関連業務の再委託契約の書き方です。
アカウントの帰属の紛争は、採用代行を途中で切り替えるときに表面化します。投稿の蓄積やフォロワー、応募者とのやり取りの履歴が受託者の名義のアカウントに残っていると、依頼企業は新しい委託先に引き継げません。返還の期限と、返還の対象(ログイン情報、管理者権限、過去の投稿のデータ)を契約で特定しておきます(求人サイトの利用規約でも、媒体のアカウント運用の代行の条を紹介しています)。
求人広告の文言は、誰が作り、誰が承認したか
採用マーケティングの契約では、業務に広告の企画・運用(広告用の動画・バナーの制作、入札の管理、レポート)を追加し、広告費は依頼企業の実費負担(事前の見積りの書面による承認が条件)、運用手数料は実際に支出した広告費の一定割合としました。免責の条に「広告審査の不承認」「炎上」などを、逸失利益の例示に「想定応募者数の未達成」「広告効果の不発」を加えています。
求人広告の内容(給与・勤務条件)の正確性は、求人企業が負う、募集情報を正確・最新に保つ義務と直結します。依頼企業が承認した文言で広告が作られた場合に、誤りの責任をどう分けるかを契約で決めておく意味があります。
条文例採用マーケティング業務委託契約書 第◯条(求人情報の内容と承認)
- 広告、動画、LPその他の成果物に掲載する賃金、労働時間、就業の場所その他の労働条件及び募集の内容(以下「求人情報」といいます。)は、乙が提供し、その正確性について乙が責任を負います。
- 甲は、成果物を公開する前に、求人情報を含む原稿を乙に提示し、乙の承認を得ます。乙は、原稿の受領から3営業日以内に、承認又は修正の指示を行います。
- 乙は、求人情報に変更が生じたとき、又は募集を終了したときは、速やかに甲に通知します。甲は、通知を受けた日から3営業日以内に、公開中の成果物の修正又は公開の停止の措置をとります。
- 甲が乙の承認を得た内容と異なる求人情報を公開したことにより生じた損害は、甲が負担します。
甲=受託者、乙=依頼企業。日数は例です。承認の記録(いつ誰が承認したか)を残す運用とセットで機能します。
成果を保証しない範囲と、請負型・準委任型
採用支援・広告・Web制作・広告運用をまとめて再委託する基本契約では、個別契約を「請負型(Webサイト・LP・広告クリエイティブ等の成果物の完成)」と「準委任型(採用支援・リサーチ・広告運用等の継続的な支援)」に分け、発注書にどちらかを記載することにしました。準委任型では、受託者は「特定の採用人数、応募数、売上、広告成果、検索順位その他の事業成果を保証しない(個別契約で明示的に保証した場合を除く)」としています。
採用代行の契約では、「採用人数」を成果として約束するかどうかが、報酬と責任の分かれ目になります。約束しないなら準委任型である旨と、保証しない範囲を明記しておきます。逆に、採用1名あたりの成果報酬を受ける設計は、業務が事務の代行にとどまるなら可能と考えられますが、成果報酬は勧誘・あっせんへの関与を疑われやすい形なので、業務内容の書き方と実際の関与をそろえることが大切です。
同じ契約では、成果物・役務の不適合について、委託者は相当な期間を定めて無償の修補・再実施・原因の調査・データの復旧などを請求でき、相当な期間は不適合の内容と業務への影響を考慮して定めるが、公開中のWebサイト・広告配信・個人情報・採用活動に重大な影響を及ぼす緊急の不適合は、受託者が合理的に対応可能な最短の期間とする、としました。納期の遅れで公開日・広告配信日・採用の日程に間に合わない場合は、催告なく解除して代わりの発注ができます。採用は説明会・面接・入社日といった日程が動かせないことが多いので、契約上も「採用の日程」を重要な期限として扱う必要があります。
元請・下請の構造での、文書の優先順位と支払
採用代行の会社が、求人企業から受けた業務の一部を制作会社やフリーランスに再委託する構造では、基本契約・個別契約・仕様書・見積書が何通も並びます。採用関連業務を含む再委託の基本契約では、優先順位を「個別契約又は発注書→本契約→仕様書→承認済みの見積書→その他の資料」とし、クライアント(求人企業)が示すセキュリティの基準などが適用される場合は、委託者が受託者にその内容を明示する、としました。求人企業の個人情報の取扱いの基準を下請が知らないまま作業する、という事態を防ぐための一文です。
同じ契約では、「クライアントからの入金、検収、社内決裁は支払の停止条件とならない」「請求書が遅れても法令上の支払期日を徒過しないよう対応する」と明記しました。受託者が特定受託事業者に当たり、委託者が特定業務委託事業者に当たる場合、報酬の支払期日は給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内で定めなければならないためです(フリーランス法4条1項。元委託者の支払期日などを明示した再委託の場合は、元委託の支払期日から30日以内とする特例があります。同条3項)。元請の採用代行会社が「求人企業から入金があってから払う」と書きたくなる場面ほど、この期日との関係を先に確認しておきます。
広告の運用を含む契約では、広告費の扱いも明確にします。採用マーケティングの契約では、広告費は依頼企業の実費負担とし、事前の見積りを依頼企業が書面で承認した範囲でのみ支出する、運用手数料は実際に支出した広告費の一定割合とする、としました。広告費を受託者が立て替えるのか、依頼企業が広告媒体に直接支払うのかによって、未払いのリスクを負う側が変わるので、支払の流れまで書いておきます。
報酬・中途解約・終了時の引渡し
採用マーケティングの業務委託(受託者の側からのご依頼)では、報酬は「当該期間中の全業務の対価であり、業務を履行したか否か、成果物が依頼企業の期待を満たすか否かを問わず支払う」、既払いの報酬は理由を問わず返還しない、中途解約は依頼企業がやむを得ない事由で申し出て受託者が書面で承諾した場合に限り、その場合は契約期間の満了までの月額報酬の残額を一括で支払う、支払の遅延が7日を超え、事前に正当な理由を通知しなければ期限の利益を失う、としました。損害賠償の上限は損害が発生した月の支払済み報酬の一定割合としています。
これは受託者に有利な設計の実例です。依頼企業の側から見ると、中途解約の制限と残額の一括払いが交渉の焦点になります。採用代行の契約を受託者・依頼企業のどちらの立場で作るかで、同じ条項でも書き方の方向が逆になります。
依頼企業の側で交渉するなら、たとえば、中途解約を「やむを得ない事由」かつ「受託者の承諾」に限る定めを、一定の予告期間を置けば解約できる定めに改める、残額の一括払いを「解約日までに着手済みの作業の対価と、取消しのできない実費」に限る、損害賠償の上限を「損害発生月の報酬の一定割合」から「直近数か月分の報酬」に引き上げる、といった方向が考えられます。採用の成果を保証しない準委任型の契約であれば、成果が出ないことを理由にした解約を認めない代わりに、業務の報告(投稿の本数、広告の配信の実績など)を受託者に求め、報告の内容で業務の履行を確かめられるようにしておくのが、依頼企業の側の現実的な手当てです(人材紹介基本契約書で扱う成功報酬型の契約とは、報酬の考え方が逆になる点に注意します)。
反対に、元請の採用代行会社が下請に再委託する基本契約では、委託者は、クライアントの方針変更・案件の中止その他の事業上の必要があるときは、書面又は電磁的方法の通知で個別契約を将来に向かって中途終了でき、その場合は終了日までに適切に完了し受領した作業の報酬と、事前に承認した取消不能な実費を支払い、受託者の責めによらない完成済み・進行中の作業を無償で取得せず、合理的に精算する、としました。採用は求人企業の都合(採用計画の中止・充足)で急に止まることが多いので、終了時の精算のルールを決めておくことが重要です。受託者が特定受託事業者に当たり、継続的な業務委託である場合は、契約の解除に少なくとも30日前までの予告が必要になる点(フリーランス法16条1項。例外あり)もあわせて確認します。
事務所の改訂例 終了時の引渡し(採用関連業務の再委託契約)
引き渡すもの
理由採用代行を途中で切り替える場合、候補者とのやり取りの履歴が引き継がれないと、候補者への連絡漏れや二重の連絡が起きます。
候補者対応の履歴は、候補者の個人情報そのものでもあります。引渡しの対象にするのと同時に、受託者の手元の複製を削除させ、削除したことを報告させる条を置いておきます(求職者の個人情報とプライバシーポリシー)。
採用代行の契約書を通して確認する項目
- 業務の一覧の各項目について、受託者が具体的に何をし、何をしないかが書かれているか。
- 応募者への勧誘・推薦・採否の判断・意思表示を、受託者の業務から外しているか(外さないなら許可の要否を検討したか)。
- 求人情報の正確性の責任と、公開前の承認の手続が書かれているか。
- 媒体・SNSアカウントの名義と、終了時の返還の対象・期限が書かれているか。
- 採用人数などの成果を保証するかどうか、請負型か準委任型かが明らかか。
- 採用計画の中止による中途終了と、進行中の作業の精算の方法が書かれているか。
- 候補者対応の履歴の引渡しと、受託者の手元の複製の削除が書かれているか。
ヒヤリングで確かめること 採用代行の契約を作る前の問い
受託者は、応募者と直接やり取りしますか。電話やメッセージで応募を勧めますか。
勧誘をするなら委託募集(36条)の検討が先になります。
一次面接や合否の連絡を、受託者が行いますか。
行うなら、その範囲と、判断をしないことを明記します。
報酬は月額固定ですか、採用1名あたりですか、広告費の割合ですか。
成果報酬は業務の書き方と実際の関与をそろえる必要があります。
媒体やSNSのアカウントは、誰の名義で作りますか。
名義と、終了時の返還の期限・対象を決めます。
求人広告の文言は、誰が作り、誰が承認しますか。
承認の手続と、承認後の誤りの責任分担を書きます。
採用代行の契約で起きがちなこと
よくあるご質問
採用代行(RPO)に許可は必要ですか?
求人原稿の作成や媒体の運用、日程調整などの事務の代行だけなら、原則として許可は不要と考えられます。報酬を受けて企業の代わりに求職者を勧誘する場合は委託募集の許可(職業安定法36条)、求職者を選んで推薦する場合は有料職業紹介の許可が問題になります。
採用マーケティングの契約書で、応募者対応はどう書けばよいですか?
応募者とのやり取りや選考は依頼企業が行い、受託者は関与しない、と書いておくと業務の範囲がはっきりします。受託者が一次対応をする場合は、その範囲と、勧誘や合否の判断をしないことを明記します。
求人広告の内容に誤りがあった場合、誰の責任になりますか?
求人企業には募集情報を正確・最新に保つ義務があり、広告を作った事業者にも虚偽表示をしない義務がかかり得ます。契約で、文言の承認者と、承認後の誤りの責任分担を決めておきます。
採用代行の成果報酬を「採用1名あたり◯円」にしてもよいですか?
業務が事務の代行にとどまるなら可能と考えられますが、成果報酬は勧誘・あっせんへの関与を疑われやすい形です。業務内容の書き方と実際の関与をそろえることが大切です。
採用代行を別の会社に切り替えるとき、何を引き継げばよいですか?
媒体・SNSのアカウントと管理権限、広告の設定、候補者対応の履歴などです。契約に引渡しの対象と期限を書いておき、旧受託者の手元の複製の削除もあわせて求めます。
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本ページは一般的な情報提供です。許可・届出の運用や解釈は、所管の行政機関によって示されるものです。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた人材紹介契約書、求人掲載契約書、採用支援・採用代行の業務委託契約書、キャリアアドバイザー・営業代行との業務委託契約書、求人サイト・スカウトサービス・採用支援SaaSの利用規約とプライバシーポリシーなどを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。このガイドは契約書・利用規約・プライバシーポリシーを扱い、許可申請・届出の手続は扱いません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 個人情報保護委員会 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)